以下の本を読了したので記録を残しておきます。
書名 スティーブン・
キング論集成ーアメリカの悪夢と超現実的光景
発行 青土社
版 2021年6月20日 第2刷(第1刷は同年5月20日発行)
本誌裏オビに書かれてあるのを拝借すると・・・
幻想文学研究家。翻訳家。
と、ある。
最近はカルチャーセンターでリモートの講座を開講したり、以前はどこかの大学で客員講師も務めていたはず。
途中で壇上に登場した風間氏は、如何にも昔ながらの「文学オタク」というイメージで、
キングに関するトリビアを小出しに披露していた。
この日同席していた白石朗氏とは同じ出版社(確か早川)でデスクを並べて、どっちが
キングの新刊を先に読了したかを競っていたとかいないとか・・・
ちなみに自分が所有している
風間賢二氏関連の書籍は以下の通り。
「キング・オブ・キングス」を自称する風間氏によるキングの研究本。というか、ファンが大好きな作家について熱く語った本。
2.スティーブン・キング インタビュー 悪夢の種子
こちらは海外の雑誌などのインタビューをまとめたもの。風間氏は監修というカタチで参加。
3.一連のダークタワーシリーズ
当初ハードカバーで出版開始されたダークタワーシリーズ。しかし、キング多忙につきなかなか続編が発行されない。その後交通事故に逢い「生きているうちに完成させなければ」と思い一気に書き上げた本作。角川文庫から改めて出版された際に翻訳したのが風間氏だ。
関連書籍「シュシュポッポ機関車チャーリー」も含めると15冊の翻訳、お疲れさまでした。
4.マーティー
本書内でその製作経緯について詳しく述べられている通り、「狼男」に関する物語を毎月の続き物的な流れで執筆された作品。自分が購入した本は1996年3月10日発行のハードカバーだが、その後2000年に文庫版として発売されたものは「人狼の四季」と改題されている。
バーニー・ライトスンのイラストがイイんだな。
それでは本書について。
全体的な構成は3部に分かれている。第1部:デビュー作から初期傑作『ザ・スタンド』まで。70年代のキング作品
第2部:80年代モダンホラー全盛期の作品から21世紀ゼロ年代の作品まで
第3部:キング・ワールドの枢軸<ダークタワー>シリーズ
そしておまけにキング全作品(1974-2020)リストと作品及び人名索引(コレ大事)が付いているのが嬉しい。
「まえがき」で風間氏が告白している通り、キング作品に彼が出会ったのは意外に遅くて80年に入ってから。「霧」を読んでぶっ飛んだそうだ。単純に初体験を時系列で考えれば自分よりも遅い。
しかし、主にヨーロッパの「その筋」の作品や古い文学作品も大量に読んできた風間氏が(なんせ仏文学部出身)キングを読み解くと、過去の文学作品や業界ジャンル分け、歴史、偉大な先代の作家群などを知識の背景にキングの作品及びキング自身の育ってきた時代背景について考察しはじめると、もう面白くて仕方がない。
加えてECコミックや英語という言語の成り立ち、さらにはゴシックロマンスにも言及が及び、もう読み手の知識が乏しいとついていけません。
本文ではあまりの考察の深さに「いや、それは考えすぎでしょ」と感じる記述も多く、ニヤリとさせられてしまう。
それでは全3部に分かれている本作に関する感想や気づいた点を乱雑にまとめておこう。
【第1部:デビュー作から初期傑作『ザ・スタンド』まで。70年代の
キング作品】
さらにベストセラー作家となるための時代背景について考察。
特に初期の
キングに関する批評家からの見方と
キング自身は「死後50年もたてば正当な評価がされるだろう」と言うほど様々な批評に耐えている。
もちろんそういった出来事が作家を主人公とした作品(ダーク・ハーフ、秘密の窓・秘密の庭、IT、ミザリー、シャイニング、スタンド・バイ・ミー、呪われた町・・・)が多い理由の一つかもしれない。
様々な分析・考察を行う風間氏の文章で驚嘆すべきところは「とにかくたくさん関連書籍を読んでいる」こと。
キングと同世代の作家はもちろん、
キング自身が育った環境で読んできたSF、文学作品のカテゴライズのための古典、心理学や哲学にまで多岐に渡る。
また、キングの研究書や批評文まで含まれるのだが、すごいのは(恐らく)半数近くが未訳の書物であるということ。
英語で書かれている文章が大部分だと思うし、なによりキングの大作「ダークタワー」全書を翻訳しただけに我々に比べれば読む速度も理解度も雲泥の差のハズ。
重ねて言うが、読むだけでも難解な哲学書なども含まれているのだ。
ところで、筆者は初期(70年代)にキングのベスト作品が集中していると言及している。
1位は「ザ・スタンド」。う~ん、確かに面白いし「善(白)」と「悪(黒)」の戦いを書いているところなどその後のキング作品の根底に流れるテーマとして分かるのだが、いかんせん長い。
2位は「シャイニング」。これは確かに楽しめる。自分もページ数の多いキング作品であるにもかかわらず複数回読んでいる。
拙ブログでも紹介しているので併せて参照されたし。
3位は「デッド・ゾーン」。スーパーナチュラルな作品ではあるが、アメリカ社会の記述が多く(特に大統領選とか)、若いころ読んだ感触はそれほど面白いというわけではなかった。
しかし、どれもキング初心者にはお勧めしないとも(笑)。
実際勧めるのは「呪われた町」である。
理由は『ポピュラーな吸血鬼ものがキング入門書としては無難』とのこと。
確かに呪われた町は面白いし、自分も最低2回は読んでいる。
そして本書P123には呪われた町の舞台であるジェルサレムズロットの歴史についても言及されている。
これが秀逸。
思わずもう一度この年表を見ながら呪われた町~暗黒の塔 を読みたくなってしまう。
2021年に製作されたテレビドラマ「チャペルウェイト」はまさにその歴史に基づく「呪われた町」の前日譚(というか2百数十年前の)である。
ぜひとも視聴したいのだが、有料なんだよな・・・
ちなみにチャペルウェイトの主役は「戦場のピアニスト」で憂いのある表情を見せていたエイドリアン・ブロディである。
そんなわけで初期キング作品にアツイラブコールを送る風間氏の考察を楽しめるのが第1部である。
【第2部:80年代モダンホラー全盛期の作品から21世紀ゼロ年代の作品まで】
第1部で70年代の初期作品にある程度ページ数を割いたのに対し、第2部ではざっとまとめて22作の長編・中編・短編を紹介している。
しかし、多くの作品があるからひとつひとつが薄っぺらいかと言えばそうではない。
テレビのために書き下ろした作品の由来や(悪魔の嵐は好きだな)、自然主義文学からの深い考察を行ったり(デスペレーションね。もう、哲学よ)、自らの経験を「書く」ために作家をモデルにした作品が多いことなどなど(作品例は・・・多すぎるので省略)。
時にマーティ(人狼の四季)の製作に至った経緯を聞いて驚いたり、
ITの歴史についてまとめられている記述(P223)を見て読書当時を思い出したり(あと、映画もね)、
ミザリーの裏表紙に隠された絵の海外版と日本版の違いを再認識したり、
キングが最も愛している作品(リーシーの物語)について読んでほろっときたり、
もう、とにかく、各作品についてのトリビアがすごくて、楽しい楽しい。
で。
それら大量の作品を紹介しながらも「アノ作品」とのリンクをほのめかす回数がだんだん増えてくるわけで。
【第3部:キング・ワールドの枢軸<ダークタワー>シリーズ】
出ました!
キングのライフワーク。
ダークタワーサイクル(あえてサイクルと呼ぼう。)
この中では様々な年代・時代に関する年譜が登場するが、それらが秀逸で感心したりびっくりしたり・・・
ちょっと上げただけでもこれだけある ↓
ローランド・デスチェイン年譜(P398)
ローランド年譜2(P408)
ダークタワー世界にかかわる<根本原理世界>史(P445)
ダークタワー主要関連作品/マルチバース・マップ(P471)
本シリーズについては、本書の紹介という狭い枠の中だけではまとまりがつかなくなるので(そんな本を良く書いてくれたもんだ)、これ以上書かないが、ダークタワーサイクルに関連するキング作品とともにすべて先読したいと思ってしまうところが怖い。
1冊平均500ページとして、単純に19作品を読めば9,500ページ。
若いころならまだしも、老眼の身にはツライぜ。
おまけ
冒頭に記した2つの付録について
キング全作品(1974-2020)紹介
各作品について一言おすすめメッセージが載っている。本書を読んだ後ではいちいち興味を掻き立てられるが、もちろんこのリストを先に見てキング作品を探すだけとしても使える。怖さ/難易度/お勧め度について0~5点として加点しているのも嬉しい。
作品索引
小説だけでなく、映画、コミック、アニメ(!)、ゲーム、作中作品(!)も含む、というところがすごい。
これには編集者の方が多大な尽力をされたと筆者自身があとがきに謝意を示している。
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