『眠れる美女たち』読了。さらに遅読に磨きをかけてしまいました・・・

著者:スティーヴン・キング、オーウェン・キング
訳者:白石朗
装画:藤田新策
装幀:石崎健太郎
出版社:株式会社文藝春秋

手元にあるハードカバーは2020年10月30日の第1刷。
今日は2022年の1月12日だから、ゆうに1年を超えている。
が、やっと読了したので感想や気づいたことなどを記しておきたい。

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【超・あらすじ】
いつものように本書カバーのあらすじとオビの文句を記しておこう。

上巻
その病にかかった女たちは深い眠りにつく。そして町には男たちだけが残される。
 女子刑務所ある小さな町、ドゥーリング。平穏な田舎町で凶悪事件が発生した。山間部の麻薬密売所を謎の女が襲撃、殺人を犯したのちに火を放ったのだ。女はほどなくして逮捕され、拘置のために刑務所に移送される。彼女の名はイーヴィー。世界を奇妙な疫病が襲い始めたのはこの頃だった。
 それは女たちだけに災いする「病」ーひとたび眠りにつくと、女たちは奇妙な繭状の物質に覆われ、目を覚まさなくなったのだ。繭を破って目覚めさせられた女たちは何かに憑かれたかのように暴力的な反応を見せることも判明する。世界中の女たちが睡魔に敗れるなか、謎の女イーヴィーだけが眠りから逃れられているようだった。
 静かな町がパニックの空気で満たされはじめる。睡魔にうち勝とうとする女たち。取り残され不安に蝕まれる男たち。やがて町にふりかかるカタストロフィは、まだ水平線の向こうにある!
 巨匠スティーブン・キングが、作家である息子オーウェンとコンビを組んで放った、圧倒的パンデミック・ホラー巨編。まさにキング印の物語の大波が、読者を巻き込んで怒涛をなす!
<オビ文句>
その疫病は、女だけを眠りにつかせる。
世界に広がる「眠り病」。残された男たちを不安と恐怖が蝕んでゆく。巨匠スティーブンが新進作家オーウェンと親子コンビを組んで贈るパンデミック・ホラー大作。
代表作「IT」が大ヒット映画となり、新たな黄金時代を迎える巨匠スティーブン・キングが今回コンビを組んだのは次男オーウェン・キング。彼もまた、作家アンソニー・ドーアから「派手な奇想の装いの下で、意味深く胸に迫る物語を語るという役割を決して忘れない」と賛辞を受けた小説家なのです。「女性だけが眠りにつく病」という奇想をもとに、田舎町の群像劇が不安と恐怖でじわじわと破滅に向かう物語と筆致は、まさに父キングの『アンダー・ザ・ドーム』などを思わせます。父と子の筆がわかちがたく結びついて生まれた、「キング印」のサスペンス。濃厚な物量とドラマに圧倒されてください。

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下巻
恐怖に駆られた男たちが銃をとる。めざすは監獄、謎の女イーヴィーがそこで待つ。
 眠りについた女たちは、「別の世界」で目をさます。そこは廃墟に様変わりしたドゥーリングの町。さまざまな事情を背負う受刑者、刑務所長、平凡な主婦だった者、あるいは妊婦。彼女たちは、それぞれにできることを担いながら、彼女たち以外に誰もいない世界で生き延びようとする。
 残された男たちのあいだでは恐怖と不安がつのっていた。繭を破れば狂暴化する女たちへの恐怖。眠ってしまった女たちが二度と目覚めないのではないかという不安。伴侶や娘を失った者は絶望し、まだ眠っていない女たちは睡魔から逃げのびようと苦闘する。しかし女を憎悪する男たちは眠る女たちを焼殺しはじめた。一方、謎の女イーヴィーを刑務所で匿う男たちは、彼女を守ることこそが事態の解決に導くと信じるが、そこへ急進派の男たちが武器弾薬で武装して、イーヴィーを始末すべく迫りつつあった。
 町はずれの森の中にそびえる巨木。この世ではない別の世界。女たちの死を悼むように舞う美しい蛾。ー奔放なイマジネーションが彩る物語は、壮絶なクライマックスへと突入する。世界最強の作家父子の唯一無二のパワーを目撃せよ。
<オビ文句>
感染した女どもを焼き払え。男たちがそう叫ぶ。
眠らない女が一人いるー女子刑務所の町で男たちを追いつめる恐怖と分断。謎の女をめぐる対立が、ついに刑務所を舞台に噴火する! 圧巻のパニック・ホラー。

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ネタバレ的なストーリー解説や主題の深い考察などは他のサイトでいくらでも拾えると思いますので、遅読の言い訳や気づいた点を・・・

【『アンダー・ザ・ドーム』的登場人物の多さ。しかし、個人の特定が難しい】
本作の主な舞台はドゥーリング女子刑務所。
それに対するドゥーリング警察署と町の人々によって描かれる。

当然刑務所には受刑者と刑務官が存在する。
冒頭の登場人物紹介のところを見ると、それだけで14名。
もちろんキングファミリーの筆による作品なので、各人の背景も描かれるのだがいかんせん人数が多すぎる。覚えられないのよね。

加えて警察署には主人公である(と思われる)クリント・ノークロスの妻であるライラはじめ、6名の登場人物。

ん~、たぶん若いころなら各人の特徴を覚えていて、場面が変わっても紐づけながら読み解くことが出来るんだろうけど、最近記憶力の低下とともにただでさえ日本人には優しくない「外国人の名前および愛称問題」がカベのように立ちはだかり、なかなかハードルが高くなってきた。

あ、これでも一応頑張って読書メモを作成しながら読んでいたのだよ。
すぐ挫折したけどね。
だって、当上位人物多すぎ ^^;
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そもそも、キング関連作品を読むのに、コノ「多数人物認識能力」が低下した時点で楽しむ資格すら失ってしまったのだろうか?

それでも、①女「だけ」が眠ると繭に包まれる現象 ②繭を無理やり破ると狂暴化する ③イーヴィーの存在 などが読者に「その先を読みたい」衝動を起こさせ、なんとか読了することが出来た。

【登場する動物たち】
キング作品には様々な動物が登場するが、重要な意味を持っていたり、ある現象のメタファーとして描かれる。
犬:「クージョ」 狂犬病に侵された犬が母子を襲う。
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雀:「ダーク・ハーフ」 双子の片割れである極悪主人公が表れる時ススメが大量発生。ツバメじゃないよ。
熊:「暗黒の塔」 ビームの守護神。その他にも方角によってそれ以外の動物が。
薔薇:同じく「暗黒の塔」 象徴的な植物として。
蜘蛛:「IT」 実際にはクモではないが、悪の象徴的な存在として人間の思考が具現化したもの。
鼠:「グリーンマイル」 ジョン・コーフィーの超自然的な能力を顕現させたのがネズミの復活。「1922」にもおぞましい登場の仕方をする。
文庫本1巻
烏:「ザ・スタンド」 悪の頭領ランドルフラッグが登場するときには必ず現れる?
兎:「シャイニング」 他にもライオンが。オーバールックホテルが操るホテル前庭の植え込み(装飾庭園~トーピアリー)が人間を襲う。
猫:「ペット・セマタリー」 恐怖小説には定番のネコ。同作では最初に生き返る動物として登場。
蛇:「リーシーの物語」 厳密にはヘビじゃない?
などなど・・・

では本作ではどんな動物が出てくるだろう。

まず個体数が一番多いのが(笑)蛾である。こちらの世界で女がくるまれている繭を焼くと向こうの世界ではその人物が消失し、後には蛾の大群が残る(飛び去って行く)というのは象徴的。

こちらとあちらの世界を繋ぐ場所にいる虎。
あ、この「繋ぐ場所」という概念、暗黒の塔のポータルだね。

女をポータルに導いたり、偵察を行う狐。古くからキツネはズルイという印象があるが、それをうまく利用して物語の進行に生かしている。

超自然的大樹の樹上に居る蛇。蛇は古代より重要な生き物。

イーヴィーが使役する鼠。

どれも古代の昔から象徴的に物語に登場する動物をうまく配置している印象を持った。

キング作品特有の「善 vs 悪」の戦いが、本作では「男 vs 女」になっている件】
さぁ、やってきました。
ワタクシにとって本作の真の主題はここだと思っています。
つまり。
今までキングが描いてきた作品の多くは「善 vs 悪」の物語であったということ。
「IT」では善<子供>と悪<たぶん古代に地球へ飛来した異星人>。
「ダークハーフ」では生まれる前に『摘出』された一人が(まるでピノコ)悪として、善である作家を襲う。
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「ザ・スタンド」では、ダイレクトに善 vs 悪の戦いが描かれる。
「タリスマン」の世界(つまり暗黒の塔と同じ次元)では善である主人公の母親を排除しようとする悪との戦いが繰り広げられる。

と、まぁ、枚挙に暇がないのですが、それが一転。
本作では「男 vs 女」になっているのです。

誰でも子供のころには性の違いを意識する前でさえ、クラスで男対女に分かれていませんでしたか?
最初はそんな単純なハナシだと思っていました。
しかし、此岸に残った男と彼岸に渡った女。
決定的に異なるのは男だけの世界は死に絶えるだけ。なぜなら彼岸で覚醒した女のなかには妊婦がいたから。彼女が男を産み落とせば子孫を残すことはできる。
血は濃くなるかもしれないけどね。

お。
まるで手塚治虫の「火の鳥 望郷編」のようだな。
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で。
女は男がいない世界でも生きていける。
むしろ、DVや差別、男尊女卑などに苦しめられている女はそれでいい。
新しく生まれた男は「女たちだけ」で教育することが出来るからだ。

しかし、男は女がいなければ存続することが出来ない。
生物学的にもそうだし、精神的にも、だ。

ところが此岸に残された男(の一部)は先のことを考えずにただひたすらイーヴィーを捕えようとする。
そこにイーヴィー捕獲派と保護派の間で(男だけにもかかわらず)争いが起きるという構図。
とにかくオトコはどうしようもないというコトを改めて思い起こさせる作品である。

補足として付け加えておきたいが、彼岸の女の中には「男のいる此岸に戻りたい」と思う女もいる。
いわゆる男に長年マインドコントロールされてきた女がそう考えるのか(それゆえ、男を排除するために犯罪に手を染めたとしても)?
ある意味、そう考えざるを得ない女も男の暴力による被害者なのかもしれない。

キングの他作品にリンクしている件】
すでに言及しているようにキングの他作品へのリンクが半端ない。
箇条書きにしてみよう。

*動物の出演:既に言及した通り
*此岸と彼岸:暗黒の塔のような我々の世界とミッドワールド(中間世界)。
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*本作中、彼岸の表現として「女たちが元の世界に戻れば、この世界は消滅する」的な表現がある。これはまさに、時空に取り残された空間がランゴリアーズによって「掃除」される様子と酷似。

うん。
まるでキングの昔の作品の影響が強いような気がしたのは自分だけだろうか。
スティーブン自身が息子と共作するにあたり、自分の過去作品と向き合いながら「息子よ、小説というものはこうして書くのだ」と奢ったのか、それともオーウェン自身が若い頃に読んだ父の作品にいつの間にか影響されていたのか・・・
確かめる術もないが、そんなことを想像しながら読むのも楽しいかもしれない。

ただ、多数の外国名の登場人物の出演に免疫のある人に限る(笑)。
あ、ただ殺戮場面はかなりスプラッター的なのでそういうのが苦手な人はご遠慮を。

【謎の解明】
さて、蛇足かもしれないが、本作の発端となる「女が眠ると繭に包まれ、繭を破ると狂暴化。なぜかイーヴィーという女は眠っても繭化せず、正常に起きることが出来る」という謎については、作中では一切解明されない。
いや、憶測はできるけど。

*イーヴィーは神の使いで、たまたま女の姿をしているが、実は無性。
*繭を破ると狂暴化するところは小説「セル」にも似ているが、どちらも原因解明にはほど遠い。
*というか、さらに謎は深まったまま物語は幕を閉じる。
*女も男もこの事件を境に「変わって」しまう。それが今後の人類の未来に良い影響を及ぼすのか、否か。誰にもわからないまま。
*別世界、女が居なくなると消滅してしまう「ランゴリアーズ的事象」ではなく、暗黒の塔的なミッドワールからの干渉が今後あるのかないのか・・・
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aquavit103

Author:aquavit103
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丙午生まれの♂。
40歳から始めた自転車に乗り、20歳で出会ったRIOTというバンドを愛し、14歳から読んでいるスティーブン・キングの本を読むことを至上の喜びとしています。