「11/22/63」読了。JFK暗殺事件を阻止するオハナシだと思ったら、大間違い。ロマンスも懐古趣味も時空間移動も。

11/22/63』読了しました。

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おやおや?
本書を購入し、喜び勇んで書影を撮影したのははるか昔、2013年10月のオハナシ。
もうすぐ10周年ですよ!
どうして今頃読了なんでしょうかね~?
オカシイですね~♪

実は本書、2013年末ごろまでに上巻の半分くらいまで読み進めていたのですが、諸般の事情で読書活動が停滞し、今に至りました。
その間、キング原作映画を見たり、もちろん小説だって読みまくったのですが本書はすっかり忘却の彼方にありました。

そして2021年。
コロナ禍吹き荒れるなかをいそいそと読書に精を出しました。
で。
再読し始めて気づいたのですが、アメリカ国民のケネディ暗殺事件に関する関心の高さ、すごいです。

確かに歴史的大事件ではありますが、我々日本人にとっては所詮他国の話し。
おまけに自分が生まれる前のコト。
今でもリー・オズワルドの単独犯か共犯者がいたのか? あるいはKGBが関与していたのではないか? などなど陰謀説をはじめ様々な憶測が飛び交っているのはちょっと調べればわかります。

ワタクシが継続して読み進めなかったのは、JFK暗殺事件の背景を詳しく知らないうちに読み始めたのが敗因のひとつと言っても過言ではないでしょう。

しかし。

本書はメチャクチャ面白いです。
なぜって?
それはこれからダラダラ書いていきますよ。

能書きはこれくらいにして感想を。

【概要】

まずは本書の概要について。
いつもながらハードカバー書籍のカバー裏にある紹介文が短く、的確にオハナシの内容を伝えているのでそれを転記しておきましょう(それにしても書籍編集者のこういった仕事は楽しくも大変な仕事だよな~)。

《上巻》
11/22/63 ー 1963年11月22日。
ケネディ大統領暗殺の日。
 高校教師のジェイクは友人アルに呼び出された。がんに侵されたアルは、死ぬ前にジェイクに受け継いでもらいたいものがあると言う。それはアルの店の倉庫の奥にある秘密ー1958年9月19日正午2分前に通じる「穴」だった。これを通じて過去へとさかのぼり、ケネディ大統領暗殺を阻止することがアルの悲願だったのだ。
 アルの願いを許諾し、ジェイクは過去へ旅立ったー「穴」の向こうに広がっていたのは古きよきアメリカ。携帯電話はなく、食べ物も素朴で美味な古きよき世界。そしてジェイクは、最初のミッションのために動き出す。58年10月、ハロウィンの夜に起こるはずの一家惨殺事件の阻止。これを成功させることができれば、ケネディ暗殺も止められるかもしれない・・・・。

「グリーンマイル」の切なさ、「デッド・ゾーン」の悲しみ、そして「スタンド・バイ・ミー」の抒情と感動。世界最高のストーリーテラーがまたも書き上げた最高傑作をご堪能ください。

《下巻》
未来を救うべきか、愛するひとを救うべきか。
大いなる語り部による大いなる物語。大いなる終幕へ。
 過去の世界で高校教師として暮らすジェイク。恋人セイディーとめぐりあった彼は、いま、かつてない幸福と充実の日々をすごしていた。その一方、ケネディ暗殺阻止の準備も着々と進んでいた。大統領暗殺がリー・ハーヴェイ・オズワルドの単独犯かどうかを見極めるべく、ジェイクはオズワルドが暗殺に先立って起こす狙撃未遂を自らの眼で確認しようと企むが、改変を拒む「時間」は、ジェイクを妨害しようと思わぬ悲劇を引き起こすージェイクの心を引き裂き、その幸福を壊してしまう痛ましい出来事を・・・・・。
 運命の日、11/22/63が迫る。心にも身体にも深い傷を負いつつ、ジェイクは暑い暑いダラスの街を駆ける。ジョン・F・ケネディ大統領の頭部を砕き、世界の未来を砕くことになる凶弾を食い止めるために。

巨大な世界の運命と、ささやかで儚い人間の営み。それは儚いからこそ、美しく甘いのではないか?壮大な旅の果てに、僕たちは涙のラスト・シーンを目にする。そう、大いなる物語の感動を!

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【時間旅行というプロット】

さて、本作の一番大きな特徴は「時空をさかのぼってケネディ大統領暗殺を阻止する」というところ。SF、非SF作品を選ばず時間をさかのぼる、または未来へ行くというのは人間にとって夢のような出来事ですね。

誰でも知っている・・・というにはすでに古くなりすぎた感のある作品「タイムマシン」はH.G.ウェルズの作品であるが、ここでは未来の地球におけるディストピアを語ることがメインであった。
しかし、誰もが考える疑問ー例えば過去へさかのぼって自分の先祖を殺害したら自分の存在は消滅するのか?というパラドックスが小説でも映画でも、その後多く語られることになる。

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こちらもすでにオールデイズだが、バックトゥザフューチャーは普段時間旅行のことなど考えない人にも「どうなるのかな?」と考えさせる作品だ。やはり世界的にヒットした作品の影響力は大きいね。
特に、両親の恋愛を図らずも自らが邪魔してしまったことにより自分の体が消えかかる・・・というのは面白い表現だったな。

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では、キング作品ではどうだろう?
時間旅行を扱った作品はあるだろうか?
あるいは「時空」旅行は?
ちょっと思い出しただけでも(こういうの、好きなんだよね)こんなにあります ↓

*マイフェイバリットの中編「ランゴリアーズ」
 時空旅行というより次元のはざまに落ち込む旅客機という設定。しかし、他に例を見ないのは落ち込んだ先には過去を食べつくす怪物ランゴリアーズがいて、その破壊行為が迫る中その「場所」の秘密を解き明かし脱出することができるか? という物語。
本の表紙 別バージョン

*全く後味が悪い作品(特に映画)「ミスト」
 こちらも時空旅行という表現が正しいのかどうかわからないが、霧によって外界と隔離された町が怪物に襲われる。まるでこの世のものとは思えない怪物が出現するところがただの隔離ストーリーとは異なるところ。
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*テレポーテーションみたいな科学技術(?)「ジョウント」
 短編。近未来で宇宙間の移動に際し、超短時間で移動が可能な技術がジョウントだが、必ず眠りに落ちていなければならない。万が一眠らずにジョウントに突入すると・・・・・という怖いお話。ちなみに、「ランゴリアーズ」でも時空のはざまに無事(?)落ちたのは、その時に眠っていた人々のみ。
画像はジョウントという時空跳躍技術の生みの親、アルフレッド・ベスターの小説「虎よ、虎よ!」
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キングのライフワークだった「ダークタワーシリーズ」
 超長編。現代の地球と時間軸も地理的条件も異なる異世界を往来するオハナシ。もうね、キングの物語の9割はダークタワーシリーズに終息するのですよ。私見ですが。映画で言うところのジェイクとの出会いや救出のための時空移動旅行。ポータルを利用したそれはまさに時空間旅行の様相を呈している。
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*様々なキング作品における ”数年(数十年)後のアレとの対決”
 少年少女が27年後に「それ」との対決をする「IT」
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*ホテルの悪霊に取りつかれた父親に殺されそうになった「シャイニング」のダニーが再びホテルへ立ち向かう「ドクター・スリープ」
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*母親を病から救うために異世界へ赴く少年を描く「タリスマン」、彼が長じて異世界の怪物を駆逐する物語「ブラックハウス」
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*少年時代の仲良しグループがエイリアンに立ち向かう「ドリームキャッチャー」
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*昔殺された女の霊が時空を超えて復讐を求める「骨の袋」。ここでは現代の霊と過去の霊が呼応するカタチでその諸悪の根源であるオトコに復讐を遂げる。
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どうですか。
ちょっと考えただけでこれだけの数。
あれ?
実はキング翁、ホラーという名を借りた時空旅行者だったのですか?と思ってしまうほど、時空(あるいは空間)移動に関する作品が多いですね。
今後はホラーではなく、時空移動小説の小説家という肩書でお願いします。

蛇足ですが、読書中にふと思い出したことがあります。
ヨーロッパ史上最大の謎の人物といわれる「サン・ジェルマン伯爵」です。
不老不死だとか、錬金術を使うとか、10以上の言語を操るとか・・・様々な逸話をもとに、石ノ森章太郎が昔著したコミックでは時空移動の術を持っているように描かれていました。

【あまりにもおいしそうな古きよき時代の食べ物
(そしてその値段)】

これはね、もう、当時のアメリカだけでなく、様々な時代の様々な地域でそうだったんだろうなと予測できる。
つまり。
当時(1958年)、今よりもフツウの社会が展開されている。
当然食べ物についてもそうだ。
今でこそ、やれオーガニックだとか、無農薬とかがもてはやされているが、当時はそれが普通だった。
ってか、オーガニックの意味をググらなくてもすぐに説明できる人、いる?

若干脱線したが、美味しくて体にも良い食べ物は、「その場所で」「旬のものを」「添加物なしに」食べるのが最上だと思います。現代では見てくればかり良くても、本当に美味な食べ物が少ないので、主人公が21世紀から58年に移動した段階で感動したのも無理はない。

冒頭で明かされる謎、アルズダイナー(アルが経営するレストラン)で、ウマイ牛肉を使ったハンバーガーが信じられない値段で供される。あまりにも安価なので「野良猫を使った肉じゃないか?」などというウワサが流れるほど。
実は1958年へ時空旅行した際に、安価な(そりゃそうだ)肉を購入して21世紀に持ち帰っていたのである。

【毎度おなじみ、キング作品とのリンク】

なにせ、長期間にわたり読書を進めたので、細かいプロットは忘却の彼方(暗黒の塔の影響力?)なのですが、当然他作品との関連を思わせるような記述がありました。

*ベヴァリーとリッチー:デリーで、まさに「IT」のストーリーが終わった直後の2人に会うジョージ。まさに彼らの踊るダンスに対してメソッドを指南し、その後セイディーとのダンスでもそれを応用してオーディエンスを魅了するのである。

*赤い薔薇:言わずと知れた暗黒の塔の象徴。

*過去は強固でなかなか変えることができないことを比喩で「亀の甲羅」を壊せない、とか、何とか・・・:亀はビームの守護者のひとつ。

【バタフライ効果】

ネットで検索するとバタフライ効果とは以下の通り。

バタフライ効果(バタフライこうか、: butterfly effect)は、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象。カオス理論で扱うカオス運動の予測困難性、初期値鋭敏性を意味する標語的、寓意的な表現である。

気象学者エドワード・ローレンツによる、「がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるか?」という問い掛けと、もしそれが正しければ、観測誤差を無くすことができない限り、正確な長期予測は根本的に困難になる、という数値予報の研究から出てきた提言に由来する。


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そもそも物理用語だったんですね

ま、前述の意味から転じて、過去へ時間旅行したものが過去へ大きな変化を与えるような行動をすると未来が大きく変わってしまう、という意味合いでしょうね。


で。
ジェイク(ジョージ)が様々な改変を過去へ干渉するような行動を起こすのだが。
その影響力の大きさにより、未来での結果が大きく変わってくる。

ケネディ暗殺阻止に成功したら、ベトナム紛争は起きないがその代わりに第3次世界大戦による深刻な放射能汚染によるアメリカの改変(改悪)が起きていた、というのが本作の特徴。
あ、ネタバレですね。
ところが、その改変はジェイクの時代に暗い影を落とし、彼のロマンスにも影響を与えるというインパクト。

その結果、ジョージ(ジェイク)は究極の2者選択を迫られることになる。
つまり、
① 恋人セイディーが元夫に襲われるのを助けて、世界の改悪を容認するか。
② 世界を救うためにセイディーの過去に関与せず、遠くから見守るか。
結論としては②を選ぶわけです。顔に傷を負うも現代(2011年)に生存しているセイディーと邂逅を果たし(もちろんセイディーには分からない)ダンスで終わるという、号泣物のラストシーンでした。




さて、ラストまで書いちまったので「大筋分かったから読む必要ないや」と思ったあなた。
間違いです。

  60年前後の古き良きアメリカを体感する
  ケネディ暗殺に関するキングならではの解釈を読み解く
  今でもはびこる男尊女卑や人種差別などについて考える
  極上のラブロマンスに酔いしれる
  時空旅行に関するパラドックスを味わう
  冷戦時代のアメリカ社会が抱える問題点の(ひとつの)解釈を知る

などなど。
本書を読むことで味わえる極上のエンターテインメントは、このエントリーを読んだだけでは決して理解できません。
上下巻で1,000ページ越えの本ですが、ぜひ「読書の時間」を作って鑑賞することをお勧めします(文庫本では上・中・下巻セット)。

ちなみに本作は映像化もされているので、そちらを鑑賞するというテっもありますよ(若干脚色されていますが)。

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40歳から始めた自転車に乗り、20歳で出会ったRIOTというバンドを愛し、14歳から読んでいるスティーブン・キングの本を読むことを至上の喜びとしています。