最初のページをめくるとAC/DCの歌詞。
『歯に衣着せず、後悔しない』
他の短編集同様、
キングによる序文が冒頭に収録されている。(
各話冒頭にそれぞれの製作メモのような文章が掲載されているが、序文はそれとは別)
これまたいつもの通り、小説を書く喜びや姿勢をそこから読み解くことができる。
また、長編小説とは異なり、短編小説を書く時の手法や自らに課した規律を守りながら書くことを楽しんでいる様子。
いつもながら思うのだが、キング様、ホントに書くのが好きなんですね~。
で、ここでは短編作品の数々を露天で売っている商品になぞらえてこう結ぶ。
『気がねなく手に取ってくれ、でもどうか用心のほどを。最良の品には歯がある。』
以前着想を得て執筆した作品。しかし原稿を紛失していた。40年後、州間高速道路の閉鎖されたサービスエリアを通過した時、ふと思い出し書き直したもの。
車に化けたエイリアンが人々を襲ったらどうする?という荒唐無稽なテーマもキングの手にかかれば楽しい作品に仕上がる。
こういうの、好きなんだな。昔読んだランゴリアーズの章毎に記されていた『一言説明文』的にご紹介します。
1.ローティーンの少年ピート。愛車は’07製のハフィー。
背伸びする少年、兄においてけぼり、初めてのウォッカ、からの睡眠、特徴のないステーションワゴン車登場。
2.保険勧誘員ダグ。愛車は'09製のプリウス。
善きサマリア人、保険適応外、ナンバープレート無し、薬指切断で結婚指輪落下、まるで車に食べられちゃったみたい。
3.馬運車トレーラーで帰宅途中のジュリー。愛車は'05製のラム・ヴァン。
元女子泥レスラー、同性愛者と農場で慎ましい生活、親切だが慎重、911に電話する間もなく車に食べられる。
4.姉弟両親4人のルシアファミリー。愛車は'11製のエクスペディション。
先だってジュリーに遭遇、姉弟喧嘩、
ステーションワゴン車邪悪なモノだと気づく、夫のその動きは絞首刑を執行された際の受刑者の痙攣と同じなのだ、があっという間に夫婦とも死亡、911は使えない、ピート覚醒、子ども助けなきゃ!
5.メイン州警察官ジミー。愛車は'11製クラウン・ヴィクトリア。
見せかけだけのネズミ取り中現場急行要請、姉弟発見、住処の番地は19!、キモベタ、警察学校で最初に習ったのは絶対にピストルを手放すな、絶叫する余裕はあった。
6.ピートとルシア姉弟の子どもたち。愛車(?)は'10製のリッチフォース。
3人の子ども合流、キモベタ車には触れない、やつらの惑星には虫眼鏡がないかもしれない、タイヤに気をつけて、退治ではなく退散させただけ
【プレミアム・ハーモニー】
作家が創作中にその時読んでいた他の作家による文体に影響されるのは良くあることだと告白している。
本作はレイモンド・カーバーの影響下で書かれたというが、キング同様カーバー作品を読んだことがないので、わからない。
で、ストーリーですが、あまり印象に残っていなかったので、
初見の気持ちで読みます。
あ、そうそう、夫婦喧嘩してたっけ。以前読んだ時の感想を見ると、夫婦喧嘩の原因は経済問題なんだけど(もちろん今回も同じ理由だけど。そりゃそうだ!同じ作品なんだから)、今回読んだ印象は子どもがいないこと、加えて奥さんが溺愛している犬が原因のように読み取れる。
ふと思い出したのは、資本主義ではコロナ渦で発生した多くの問題が解決出来ない、と言及したローマ教皇の言葉。
カーバーの影響下で執筆された本作、たしかにいつものキング節とはひと味違うように感じました。作者のノートを読んで思うのだが、昔記憶の奥へしまっておいたプロットをふとしたきっかけで結びつけて作品にする。
そんな記憶力の良さと常に周囲の出来事に気を配る、というのが作家の職業病というか優れているところなんでしょうね。
さて、物語は高齢者施設へ定期的に父親を見舞う息子の話し。
運転中に性格が乱暴になるのは概ね全てのドライバーに当てはまることだと思うのだが、これはひどい。
終盤でこの息子の年齢が明かされるが、危害を加えた男のような輩が世の中増えているのですかね~。
今月末の合い言葉は『トリック・オア・ドリンク!』で決まりだな。 ノートで語っているが、このストーリーはほぼ完成された形で『
降りて』きた。キングはただそれを書き写すだけだったという。
ブラックで短くて登場人物も最小限。20ページに満たない(日本語で)作品はさすがに珍しいのでは?
内容は・・・受動的なデスノート、とだけ。
【悪ガキ】
題名をみてまず頭に浮かんだのはティーンエージャーの悪ガキ。
わかりやすい例だと映画『IT』。転校生は最初いじめられやすい傾向にあるが、後にルーザーズクラブの一員になるベン・ハンスコムもそう。
彼をいじめるのが上級生の不良グループ。クルマに乗っていてちょっとしたことですぐにナイフを振りかざす。ヘンリー・バワーズが親玉ね。
そんな悪ガキをイメージしていたのに、本作ではちょっと違う。
5~7才くらいで小太りの洋服のセンスゼロの子ども。物語のキーにもなる『竹コプター付キャップ』をかぶっているくらいですから粋がる若者とは違います。
この悪ガキ、主人公で死刑囚のハラスの人生に時々現れては彼が好意を持つ女性を死に至らしめる。それも直接手を下さず、きっかけを作るだけ。必ずその際に誰かを巻き込んでその人物の心にトラウマを残させる。
キングが序文で書いているが、『これまで存在したすべての悪ガキの権化を書きたい』と思ったらしい。
うん、確かにこのガキからはR.F.の匂いがする。
【死】
ストレートな題名。
加えてキングが告白しているように飾り気なく、いつものキング節とは異なる言い回しが筆者をストーリーの先まで連れていってくれる。
年月も場所も特定せず(なんとなく分かるが)登場人物の背景を書き込むこともなし。
罪を犯した(?)人物を逮捕・起訴・有罪判決により死刑執行するストーリーですが、人種差別やマスコントロールなど現代に通じる問題を抱えていて、読後感は最悪です。
【骨の教会】
若い頃に書いた詩を創作し直したもの。
詩は珍しいが今までになかったわけではない。
ただモノにならなかっただけで。
アル中男の独白のような体裁で恐怖の冒険譚を語っている。
最終的に何を得て、何を失ったのか(チームのほぼ全員を)わからないが語り部がアル中で酒を呑まなければその経験を語れない。
【モラリティー】
作中で触れられているが、因果応報、というかそもそもここで語られた事件を起こしていなかったとしても2人が幸せな結婚生活を送れたかどうかはわからない。
主人公夫妻の夫は代理教師の職の合間に執筆している作家。
キング作品にありがちなパターンだが、誰かが言っていた通り自分と同じ境遇の登場人物を描くとき、キングは自分の経験ややりたいことを書く。
だとしたら、単に犯罪現場を撮影したいだけなのか、それともDV的夜の生活に憧れているのか?
ま、永遠にわかりませんね。
それにしても、この作品でも宗教観の差が物語をわかりにくくしています。
牧師が本当に求めたのは、夫妻が不幸になることだったのかな?
【アフターライフ】
古今東西、老若男女、全ての人間にとって永遠に知りたいのに絶対叶えられることがないテーマ。『人間は死んだらどうなるのか』
ここでキングは輪廻転生案を採用しています。
日本風に言えば、閻魔様の前で今までの行いを吟味されて、どこへ行くのかを決められる。
ただ作中ではなぜか主人公が選択することが出来る。
同じ人間として産まれることを選ぶが、あれ?これじゃ輪廻転生じゃない。
これじゃ未来永劫罰を受けている。
ローランドと同じだ。
主人公が死を選びそっちのパターンで未来永劫罰を受けている人間を観てどう感じるか?について語るというストーリーなら両者の比較が出来て面白いのにな~。
【UR】
最初に作品中で推測されているURの意味は2点。
ひとつは『旧約聖書に出てくるウルという都市の名前』
もうひとつは『原初の、原始の、という意味の接頭辞』
結局は「異世界ナンバー」とでもいうところか。
30代の英文学教師が入手したキンドル。普通は白い製品だけなのに彼の手元に届いたのはピンクのキンドル。
いわゆるパラレルワールド的なお話しですが、ディープなキングファンにはダークタワーがらみのストーリーと言えばピンとくるでしょう。
このキンドルでURナンバーを指定すると『ある世界の文学作品』がよめる。有名作家の未発表作品が安価に買える。
そして別の機能として『未来の』ローカルニュースを読むことが出来る。
そこで恋人が事故に巻き込まれて死亡することを知った教師はそれを止めるために事故現場へ向かうが・・・
わずか100ページほどの作品で、冒頭からグイグイ引き込まれます。
あり得ない設定なのに先が気になるし、黄色いコートのロウメンも出てくるし、キングファンもそうでない人もまるでトワイライトゾーンのように楽しめる作品です。
本作も物語のバリエーションが豊か。
ま、いつものことだけど。
こういう作品群を読むと、「ホラーの帝王」とか「モダン・ホラーの開拓者」などと言われても
「いや、違うでしょ!」
と言いたくなりますね。
キングは特にそうなのですが、別にジャンルを固定して書いているわけではない。
アタマに浮かんだ面白そうな話しを、時には一気呵成に書き上げ、
またある時は熟考を重ねて完成へ導く。
そうして吟味された作品だからこそ多くの人を惹きつけるのである。
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