キング原作の
1922は、もともと短編集である「Full Dark, No Stars」に収められている作品。
原作は既に読了していますが、ブログに記録が見つからない・・・
手元にある文庫は2013年1月発刊のもの。
文庫ウラにあるあらすじはこう ↓
8年前、私は息子とともに妻を殺し、井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし息子と私は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ・・・罪悪のもたらす魂の地獄!
映画のほうはNETFLIXで配信されたものだが、そこでのあらすじはこう ↓
ペンを取り、自ら犯した妻殺しの事実を書き残していく農夫。だがその殺人は、不気味な恐怖の物語への序章に過ぎなかった。原作はスティーヴン・キングの小説。
さて、先に述べたように短編集を収めた原題は『Full Dark, No Stars -星もない真っ暗闇-』である。
その名の通り、
キングのホラー小説に時折みられる、恐怖の中にも希望や救いなどとは一切縁がなく、ひたすら恐怖・絶望・後悔・復讐・・・等々の負の感情が支配する作品ばかりが集められている。
その中でも代表格というか比較的ページ数の多い作品が
1922である。
もちろん
1922年に起きた出来事をもとにした物語であるが、それだけでは本作の性格を10%くらいしか表していない。
とはいえ、この年代は世界恐慌の前兆、アメリカの経済成長に陰りが見え始め暗い恐慌時代へ突入する寸前の物語であることがひとつのポイントでもある。
国内産業全体は潤っていたが、農業自体は低迷していたらしい。
【キャスト】
*ウィルフレッド・リーランド・ジェイムズ:主人公であり原作ではストーリーを「記録」する形で手紙を書くところから始まる。演じるのは
トーマス・ジェーン。観終わるまで気づかなかったが、なんとこの人
キング映画の常連さんでした。
2003年のドリームキャッチャーでは主役(?)のヘンリーを演じていた。え。全然イメージ違うんだけど。役者じゃの~。
ま、超オバカB級映画であるドリームキャッチャーと本作ではあまりにも物語のベクトルが違いすぎますからね~。気づかないのも無理はありません。
そして、
キング作品の中では圧倒的に「(原作と異なる)ラストが悲観的すぎて」賛否のわかれる『ミスト』でも主役級の父親役を演じている。こちらは2007年の作品だったんですね。
*ヘンリー・フリーマン・ジェイムズ:主人公の息子。原作を読んだときは「もっと幼い息子」だと思っていた。でも、考えてみれば母親殺しの手伝いもするし(手際の悪さから幼いと思ったのかもしれない。しかし母親を上手に殺せる息子なんていないよな・・・)駆け落ちだってしちゃうんだから、立派な大人だね。嘘をつくシーンではもっとおどおどしてなきゃダメなんじゃ?と思ったけど、全体的にまあまあの演技だったかな。
*アルレット・クリスチーナ・ウィンターズ・ジェイムズ:主人公の妻。(たぶん)浪費家で田舎暮らしを嫌っている。彼女の一言、「土地を売って都会へ行きたい」から惨劇の火ぶたが切って落とされる。
で。
演じているのはモリー・パーカーという女優さんなのですが、彼女がいい!
こんな田舎暮らしなのに?と思うような服装やセリフは演出によるものだとして、殺したくなるような表情や振る舞いの演じ方が気に入りました。
カナダ出身の女優さんらしいですが、大ヒット映画に出演しているようではありません(映画通でもなんでもないのでわかりませんが)。どちらかというと、テレビドラマとかテレビ映画でコンスタントに活躍しているようですね。
【思わせぶりなシーン】
*なんたって
「トウモロコシ畑」ですね。
キングの古い作品「トウモロコシ畑の子供たち」は、大人社会と隔絶された場所でおぞましい儀式を行う子供たち・・・というストーリーだと思ったけど。古いから(そして再読していない)ディテール覚えてないな。
また、昨年ネトフリで公開された「イン・ザ・トール・グラスー狂気の迷路ー」もトウモロコシとは限定していないが「背の高い草」の中で起きる怪奇現象について語られる作品。全編は見ていないが、草むらの映像を見て本作の畑を思い出してしまうのは無理もない。
そういえば、ブラックハウスでもそんな描写がなかったっけ??
*
「井戸」。
キング作品じゃないけど、やっぱり貞子かな。ま、井戸はもともと不気味だし。
*シーンとしては出てこないけど(笑)、この家族を襲う数々の悲劇を見ていると、ランドル・フラッグや魔術師マーリン、もしかしてリーランド・ゴーント(実はすべて同じ存在だったりして)の誰かが陰で糸を引いているのかもしれない。
*冒頭、主人公である夫が
手記で告白するという手法は、
グリーンマイルやスタンド・バイ・ミーにも似ている。
*主人公の幻覚とはいえ、妻をはじめ死者が蘇って迫ってくるのはペットセマタリーですね。
*
ねずみ。壁の中をねずみあるいは何かの生き物が這いまわっているというシークエンスは
キング作品だっただろうか?あるいは、ラヴクラフト?それとも江戸川乱歩??
*地下室へ転がり落ちて死んだ妻が迫りくるシーン。地下と言えば「IT」でしょうか。
*知るすべがない遠隔地での息子の所業を夫に伝える妻の死体。これはもう、ダークタワーの不思議な世界。
妻を殺害、息子駆け落ち、駆け落ちした少女が殺害される、息子自殺、自身破産、ネズミの悪夢、壊疽により左手欠損・・・どこまでもダークな内容ですが、最終的に主人公の死は描かれていない。
つまりどこまでも業を携えながら生きていかなければならないという、まさに
グリーンマイルでポール・エッジコムに課せられた功罪のようだ。
これこそまさに『Full Dark, No Stars -星もない真っ暗闇-』である。
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