kotoba ~特集 スティーブン・キング~ 様々な視点でキングを評した文章が楽しいです♪

雑誌である。
キング特集である。
昔はキングの雑誌や読本が多かったのだが、最近少なめだなと思っていたら、先日購入したケトルに続き、大勢の気になる執筆陣による編集であり、発売直後に購入した。

bk_cover40.jpg

この雑誌は季刊のようなので、特集であるキングに関係ないものもあるのだが、全220ページ余りのうち6割がキング特集。

そして特集が2部に分かれていて、
1部:私とキング 私のキング
2部:キングを新しい視点で読む、観る
としている。

1部は一般的にもキング好きとして有名な著名人が『こんだけキングのこと好きなんだよ~』と誌面に思いのたけをぶつけている。

2部についてはちょっと異色。いろんな切り口でキングを評しているが、それが宗教だったりロックンロールだったり(あ、これは意外でも何でもない)、翻訳家の視点だったり。

もったいなくてまだすべてを読了していないが、特に自分が気になったモノを抜粋して紹介しておこう。

もちろん雑誌の内容をそのまま紹介することはできないが、公式HPにアップされている誌面の一部も利用させてもらいました。

【1部 私とキング 私のキング

キングファンを公言して久しい養老孟子から、なんとこんな人までファンだったのか!という人まで勢ぞろい。
P_20200701_202547_p.jpg

意表を突かれたのは浦沢直樹。漫画家と言えば忙しい職業の代名詞みたいなもの。特にキングの古い作品を知っているところを考えると、アシスタント時代か新人のころだから今以上に時間がなかったのではないか。
そんななかでも他媒体の芸術作品をどん欲に吸収しようとするのが成功する表現者の条件の一つなのかもしれませんね。
浦沢直樹
しかし、オチとしてキング作品は初期作品をわずかに読んだだけで、超代表作である「IT」すら読み終わっていないということ。
余生を楽しみながらゆっくり読むつもりとのこと。老いて視力の低下だけでなく集中力も落ちて読むのに苦労するかもしれませんが、キング沼に喜んでハマってください(笑)。

そして永井豪。この人もキングファンだったことを知りませんでした。
で、エピソードとして面白かったのは手塚治虫と一緒に映画「シャイニング」を見て論争を交わしたこと。そして手塚治虫が原作との違いを事細かに説明してくれたこと。で、これがマニアが喜ぶようなピンポイントの指摘で、思わずニヤリとしちゃいます。
永井豪

あ、後半で自作の「デビルマン」との比較でキング作品との共通点として”結局恐ろしいのは人間”という考察が面白かったです。

全体的に今回執筆した皆さんに共通して言えること。
スタンリー・キューブリック監督の映画「シャイニング」についての肯定的な意見。
あ、もちろん自分も映画単体としてのシャイニング、嫌いではないですよ。
ただ、「シャイン(超能力のこと)」についての描き方が不足していると思うだけで。
で、皆さんがおっしゃるのは「映画は素晴らしい。小説と映画は別だから」。
文章を読み解くとわかるのだが、結局は「キングの小説は映像化が不可能」だからという開き直った意見に集約されるようですね(笑)。

【2部 キングを新しい視点で読む、観る】

第2部ではキングファンとしてお馴染みの人も、全く知らなかった人も実に興味深い視点でキングを切り取っています。
こちらも気になったものを簡単に紹介しておきましょう。

言わずと知れたキング作品の翻訳を多く手掛けている翻訳家。
職業柄及び自身の興味の対象として原作を原文のまま読んでいるでしょうから、情報が早いんですね。当然、彼は「最も早く原作を読み解いている」日本人の一人として媒体に情報を出すことができる立場であるので、頼りにしています。

で、未邦訳の書籍を(ある程度)詳しく紹介してくれているのはファンとしてシンプルにうれしいです。いくつか紹介しちゃう。

『The Outsider』アメリカHBOにてドラマ制作されており、日本でも今年の4月から放映されているので楽しんでいる人も多いはず。
11歳の少年が惨殺され、容疑者として確保された町で人望が厚い人物テリー。彼が犯人であるという鉄壁の証拠がある反面、なぜか彼が犯人ではないとする鉄壁の証拠も現れる。中盤以降不可能犯罪の謎を解明するべく特別オールワン・チームが結成されるが・・・

『If It Bleeds』4編の中短編集を収めた作品集。特に表題作ではビル・ホッジストリロジーでお馴染みの(そして自分が大好きなキャラクターである)ホリー・ギブニーが登場するところが楽しみです。キング自身あとがきで「わたしはホリーを愛している」と書いているそうですが、ミスター・メルセデスに登場した彼女が作者の意図を超えて成長したと舞台裏を明かしています。

『Sleeping Beauties』オーウェン・キングとの共作。COVID-19を先取りしたような内容らしい。(映像化、コミック化が予定されている?)

『The Institute』超能力もの。子供が研究施設に隔離されるという設定はファイアスターターを髣髴させますが、さらに複雑なストーリーが絡んでくるようですね。

『Gwendy's Button Box』キングが冒頭を執筆した作品にリチャード・チズマーが書き継いで完成。

『Gwendy's Magic Feather』チズマー単独による続編。主人公のほかノリス・リッジウィック保安官も登場(!)

『Elevation』体の外見はいっさい変化しないまま体重がどんどん軽くなる奇病にかかった、キャッスルロック在住の男の物語。

他にも古典「呪われた町」の映画化するという情報もあります。

神学者、宗教学者、アメリカ研究者。
ここでは特に「キャリー」に出てくる母親(マーガレット・ホワイト)をもとにアメリカ的キリスト教の特異性について論じている。
特に気になった一文『アメリカの歴史は、率直に言って奇天烈なキリスト教のオンパレードである』。
強烈な、しかし論理的な筆致により宗教が人間の精神に影響を及ぼし、それはアメリカだけではなく現代の世界情勢に対しても大きな影響力を持つと感じた。
そして、久しぶりにキャリーを読みたくなった。前回読んだのは恐らく10代か20代前半なので、今とは全く異なる印象だろうな。

こちらもキングファンにはお馴染みの幻想文学研究家、翻訳家。
「神は残酷だ!」という見出しだけでもワクワクしちゃう。
ところが論評の中心は「自然文学としてのキング・ワールド」だから、純粋文学青年ではなかった自分にとっては難しい。
ただ、キングによくある「ハッピーエンドじゃ終わらないぜ」という作品を表す言葉として「人間には全く無関心な世界、つまり意味を求めずにいられない人間という生き物にとっての不条理な世界を描いている。問い:なんで? 答え:だって、そうだから」。

【おまけ】

*スティーブン・キング全著作解説 風間賢二
 それぞれ「難易度、怖さ、おすすめ」について★で評価。他に「ホラー」「超能力」などのタグもついており、それを見ているだけでも楽しい。未邦訳作品や絵本も入っているのが嬉しい。

*スティーブン・キング原作 全映像化作品解説 馬飼野元宏
 映画化作品とそれんと並ぶほど多いテレビドラマ化作品を分類して紹介してくれているのが嬉しい。
P_20200701_202713_p.jpg

というわけで、早く未読の作品、読まなくっちゃ♪
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

aquavit103

Author:aquavit103
FC2ブログへようこそ!
丙午生まれの♂。
40歳から始めた自転車に乗り、20歳で出会ったRIOTというバンドを愛し、14歳から読んでいるスティーブン・キングの本を読むことを至上の喜びとしています。