自宅にいる時間が長いので、昔読んだ小説を再読することにしました。
昨年、続編である『ドクタースリープ』が映画公開されましたね。関連作品がいくつかあります。
1.スタンリー・キューブリック監督のシャイニング
これらの作品を知っている状態で読むと、さらに楽しさ倍増です。
その感動も冷め切らないうちですので、より一層楽しめると思い、再読を決めたわけです。
今回は何度目かの再読なので、読書メモを作成しながらちょっとだけ深読みしてみました。
長くなりそうなので続きは ↓
≪あらすじ≫
本作のあらすじをネット上で拾おうとすれば、オフィシャル、アンオフィシャル含めてたくさん出てくると思いますが、やはりここは今回読んだ所蔵本から引用しましょう。
ちなみに自宅にある本は文藝春秋発行の文春文庫、1986年11月10日発行の第1刷。
ISBN4-16-727558-9(上巻)、ISBN4-16-727559-7(下巻)、 当時の定価は各550円。
翻訳は深町眞理子氏。本作以外にもキング作品では「ザ・スタンド」「ペット・セマタリー」の翻訳を手掛けています。
上巻オビ文句:雪に閉ざされた観光ホテルで管理人一家を襲う怪異!
上巻カバーあらすじ:<景観荘~オーバールック~>ホテルはコロラド山中にあり、世界で最も美しいたたずまいをもつリゾート・ホテルのひとつだが、冬季には零下25度の酷寒と積雪に閉ざされ、外界から完全に隔離される。そのホテルに一冬の管理人として住みこんだ、作家とその妻と5歳の少年。が、そこには、ひそかに爪をとぐ何かがいて、そのときを待ち受けるのだ!
下巻オビ文句:惨劇とそのあとの浄化・・・恐怖小説の第一人者による金字塔的傑作
下巻カバーあらすじ:すずめばちは何を予告する使者だったのか?鏡の中に青火で燃えるREDRUMの文字の意味は?・・・小止みなく襲いかかる怪異の中で狂気の淵へと向かう父親と、もうひとつの世界へ行き来する少年、恐怖と憎しみが恐るべき惨劇へとのぼりつめ、そのあとに訪れる浄化―恐怖小説の第一人者による<幽霊屋敷>テーマの金字塔的傑作
≪オーバールックホテル概要≫
所在地 :コロラド州ロッキー山脈国立公園近くの山中(のどこか)
営業日程:毎年5月15日~9月30日
総客室数:110室
従業員数:110人
建築年 :1907~1909年竣工
客室詳細:1階 シングルルーム20室、ダブルルーム20室 合計40室
2階 シングルルーム10室、ダブルルーム30室 合計40室
3階(最上階) 全スイート30室(西、中央、東に各10室)
付帯設備:各階にリネン室が3室。物置が2階東端と1階西端に各1室。
グランドフロア→中央に受付(赤)。その奥に事務所。
受付をはさんで左右に80ftのロビー
→西翼(黄)に大食堂、コロラドラウンジ。
→東翼(青)に宴会場、舞踏室。
庭の設備:ローク(クローケー)のコート、装飾庭園(トーピアリー)※1
≪オーバールックホテル所有者の変遷≫
1909-1915年:ロバート・タウンリー・ワトソン。
1922年:所有者不明
1929年:所有者不明
1936年:所有者不明
1939?-1945年:第2次世界大戦中は空き家。
1945年:ホレス・ダーウェント(発明家・飛行機乗り・プロデューサー・興行主)が大幅改築を行なう。改築にかかった費用は100万ドル~300万ドルともいわれている。(現在のレートで換算すれば1~3億円ちょっとになりますが、通貨価値が異なるでしょうから、ねぇ)
1952年:カリフォルニアの投資家グループ(筆頭チャールズ・グロンダン)※2
1970年:ショックリー・グループにより買収。→スチュアート・アルマンに経営委託。経営再開からしばらくは改修費用等により赤字が続いたが、1979年頃にはようやく黒字経営に転換した。
上記写真は、シャイニング映画化に当たって内装を参考にした(らしい)ヨセミテ公園にあるアワニーホテル(前マジェスティック・ヨセミテ・ホテル)のもの。
≪オーバールックホテルに宿泊した(とされる)著名人≫
*グラディス・ヴァンダービルト・セーチェーニ(1886-1965)
アメリカの富豪でオランダ系の一族。ハンガリー貴族のセーチェーニ・ラースロー伯爵の妻。アメリカ鉄道王の曾孫。
*ロックフェラー夫妻(??)
多くの一族が居るため、ホテル営業当時に宿泊した可能性があるのは以下の人物か??
①ジョン・デイヴィソン・ロックフェラー・シニア(1839-1937):スタンダード・オイル社を創業し、アメリカ初のトラストを結成した。
②ジョン・デイヴィソン・ロックフェラー・ジュニア(1874-1960):~シニアの一人息子。アメリカの資本家・慈善家。
③ネルソン・アルドリッチ・ロックフェラー(1908-1979):アメリカの第41代副大統領。
*アスター夫妻(??)
米・英の財閥。こちらも対象人物が多く個人の特定はできず。言い換えれば作中では個人の特定ではなく、それだけ大勢の有力者が宿泊したことのある由緒正しきホテルであることの描写であると思われる。
*デュポン(??)
フランス発祥の名門一族。こちらも個人の特定できず。
*アメリカ合衆国の大統領
①ウッドロウ・ウィルソン(1856-1924) 第28代大統領
②ウォレン・ハーディング(1856-1923) 第29代大統領
③フランクリン・ルーズベルト(1882-1945) 第32代大統領
④リチャード・ニクソン(1913-1994) 第37代大統領
≪主な登場人物≫
(良しにつけ悪しきにつけ、写真はキューブリック監督映画から引用させていただきました。あまりにも登場人物が魅力的なので)
- トランスファミリー
ジャック・トランス:作家。ヴァーモントにある元プレップスクール(ストーヴィントン高校)※3の英語教師。学生時代にウェンディと結婚。大学院(英文学)在籍中にエスカイア※4誌に「ブラックホールについて」という短編小説が900ドルで売れる。DVの父と従順(すぎる)母の間に生まれる。4人兄弟の末っ子。兄が2人、姉が1人。幼少のころは父のことが大好きだった。

ウェンディ(ウィニフレッド)・トランス:ジャックの妻。両親と妹の4人家族だったが、妹のエイリーンは幼少のころに自動車事故で死亡。母との仲は最悪で、ジャックが住みこみでホテルの管理人をしなければならなかったのも、実家に頼りたくなかったことが大きな要因(最大の理由は経済的な問題)のひとつ。

ダニー・トランス(ジョン・ダニエル・トランス):ジャックとウェンディの息子。5歳。父であるジャックのことが大好きで、だからこそ父親が困ることにならないように気配りしてしまう。それだけ父を愛し、理知的な子供。強力なシャイン(かがやき)の持ち主。

- ホテル従業員ほか、関係者
スチュアート・アルマン:現在のホテルマネージャー。小柄で小太り。基本的に下々の従業員に対する気配りはなく、ただ各自の業務をこなせばいいとだけ思っている。従って、ジャック・トランスのことも毛嫌いしている。ただ、ジャックの友人アルが重役会のメンバーであり、ジャックを強く推薦したので断ることが出来なかった。
気を付けなければいけないのは原作と映画とで、アルマンの雰囲気は随分異なる。原作ではジャックがホテルの裏歴史を暴露することを電話でアルマンに話すところで、ジャックに対する冷たい対応が非常に目立つ。

アルバート・ショックリー:ジャックからは「アル」と呼ばれる。ホテルの出資者かつ重役会メンバー。以前のジャックの飲み友達。ジャックが教職を追われる時にも関係者を説得して慰留に尽力。アルマンに対しても大きな影響力を持つ。彼の父親はアーサー・ロングリー・ショックリーと言い製鉄王とも呼ばれ、ストーヴィントン高校の理事の任にも就いていた。
ロバート・タウンリー・ワトスン:ホテルを作った施主。1915年まで持ち主だったが維持費がかかるため手放さざるを得なかった。現在は彼の孫のワトスンが営繕係で働いている。
ワトスン:ジャックに地下ボイラーの管理法を説明してくれた。R.T.ワトスンの孫。ちなみに、ボイラーの圧力は100psiを上限として管理する必要あり。「俺だったら180psiを越えたらこのボイラーには近寄りたくない」との発言も。
デルバート・グレイディ:1970年の冬季管理人。家族は妻と娘2人。映画では彼の娘が双子という設定になっていますが、原作では2歳差の姉妹。デルバートは閉所恐怖症の持病を持っているが、別名キャビン熱(Cabin fever)ともいう。アルコール中毒の疑いがあることが物語冒頭で語られているが、ジャックの変貌ぶりを考えると間違いなくアル中だったと考えられる。写真、左側の人物がデルバート・グレイディ。前管理人として(笑)ジャックをそそのかす役目を担っている。

ディック・ハローラン:ホテルのコック。黒人。シャイニング(かがやき)の持ち主。ダニーにかがやきについていろいろと教えてくれる。ダニーと別れ際のハローランのセリフ「おまえさんを傷つけるものがあるとは思わない」(上P174)。しかし、彼自身今シーズンで辞めようと思うほどホテルを恐れている。命がけでダニーを助けるために暖かいフロリダから酷寒のコロラドへ来てくれる、愛すべき存在。

デロレス・ヴィカリー:ホテルのメイドでかがやきの持ち主。217号室で霊を見たため解雇された。
ホレス・M・ダーウェント:1945年~ホテルのオーナーとなる。ホテルの再出発に1945年8月29日に披露仮面舞踏会を開催する旨の招待状を関係者へ送っている。写真右の人物がダーウェント。原作ではダーウェントが犬男をイジるのは舞踏会会場なんだけどね。ちなみにダーウェントの経歴は面白くて、セントポールの貧困家庭の出身にもかかわらず海軍を経て数々の発明をするが特許を巡り海軍と争い敗訴。その後航空産業に目を付け軍需特許を大量に取得。並行して軍需・織物・化学工場へ投資していく。その後大恐慌時代に大きな負債をこしらえ、酒密売・売春・密貿易・賭博業界などにのめりこみ、裏社会で力をつける。さらに戦後に財産を増やし、ユナイテッド航空やラスベガスを所有、さらにはアメリカ合衆国そのものを所有しているという噂まで。
ロバート・ノーマン:プレジデンシャル・スイート室での射殺事件(1966年)の際、警察へ通報した当時の支配人。蛇足だが、確かキングのローズ・マダーでは主人公ローズの夫がノーマン。警察官でありながら妻のストーカーと化す不気味さよ。恐らく1966年当時の支配人なら、大なり小なり経営陣の状況を知っているだろうし、ノーマン自身悪に手を染めていたという可能性も十分あり得る。
ロイド:コロラドラウンジのバーテンダー。ジャックにバーボンを飲ませる。

- その他の登場人物(最も重要な役割を担うのはジョージ・ハットフィールドかな)
ジョージ・ハットフィールド:ジャックが弁論部で指導していた学生、17歳。スポーツ万能で美少年の「出来る」高校生。父親は弁護士で息子に跡を継いでもらいたいとの思いから、弁論チームに参加させる。吃音癖があり、緊張するほど(議論内容の是非は関係なく、相手を論破させることだけは得意)どもってしまう。時間内に弁論を終えることが出来なかったためジャックの指導を受けるが反発(ジャックがわざとタイマーを進めて自分の持ち時間を短くしたと思い込む)。最終的にジャックに弁論チームを辞めさせられることになり、逆恨み。ジャックの車を傷つけ、それにおこったジャックが手をあげ両者とも処分を受けることになる。結果的にジャックが「のっぴきならない」状況に追いやられるきっかけを作ることになる。
トニー:ダニーの心の中にだけいる友達。最終的にダニー自身だということに気づく。つまり自分の「かがやき」能力が顕在化するために作り上げた人格(?)。トランス家族がオーバールックで越冬することについてかなり前から警告していた。
デンカー:ジャックが書いている戯曲の登場人物。サディスティックな校長。
ゲイリー・ベンスン:ジャックが書いている戯曲の登場人物。主人公の高校生。奇しくもデンカーは教師であるジャック、ゲイリーをジョージ・ハットフィールドだと仮定すると、まるでジャックは自分の経験を戯曲に著そうとしていたのだろうか。
フィリス・サンドラー:ニューヨークの出版エージェントスタッフ。赤毛の男勝りの女性。作家ショーン・オケーシーの信奉者。ちなみにショーン・オケーシー(1880-1964)はアイルランドの劇作家。
ビル・エドマンズ:すずめばち事件※5のあと診察を受けたドクター。ダニーが彼の心の中をのぞいた時、ファイルキャビネットがあり、それは妙に心の休まるイメージという記述があった。これはとりもなおさず、映画「ドクタースリープ」に出てくる幽霊を閉じ込める箱を想起させる。

≪オーバールックホテルの暗黒の歴史≫
ホテルのオーナーの変遷については既に記したが、表に出ない裏歴史についてまとめてみる。これは上巻P295以降にあるように地下室でジャックが発見したスクラップブックにある新聞の切り抜きを主にしたものである。時系列的に並べてみる。
基本的にはホレス・ダーウェントがオーナーになりホテルを再オープンさせた頃からのものである。ちなみにスクラップブックを作った人物は明記されていないが、前管理人のデルバート・グレイディであると推察される。
- 1945年8月29日:この日にホテルの披露仮面舞踏会を開催する旨を記した招待状。ディナーは20時から、24時をもって仮面を取り舞踏会を開催。『仮面を取れ!』

- 1947年5月15日:ダーウェントのインタビュー。オーバールックホテルの再開について。過去38年間の間、ホテルは休業と再開を繰り返してきた。再開に向けてダーウェントは既に100万ドルを超える資金を投じている(一説には300万ドルをも超えるとさえ)。彼はラスヴェガスの会社の株を有しているが、「ホテルにも同じ仕事を持ち込むつもりか?」と聞かれたのに対して「ホテルを賭博場にするつもりはない」と発言している。
- 1952年2月1日:撤退記事。カリフォルニアの投資家とホテル及び他の投資対象についての売買交渉がまとまる。それによれば1954年10月1日付でコロラド州から撤退するとのこと。そこには天然ガス、石炭、水力発電などの事業も含まれる。買い手はチャールズ・グロンダン※6を筆頭とするカリフォルニア州の投資家グループ。なお、チャールズ・グロンダンは同州土地開発会社の前社長。2シーズン後マウンテンビューリゾートに売却。その後50年代終わりまでホテルは閉鎖となった。
- 1961年:作家による創作グループの集まりがホテルで開催された。4人のうちの1人が不審死。亡くなった作家は3階の自室の窓を破っての転落死だった。
- 1963年4月10日:ラス・ヴェガスのグループ(ハイ・カントリー)がホテルを買収。
- 1964年7月27日:スクラップブックの記事の見出しは『ダーウェントは裏口からコロラドに戻ったのか?』。チャールズ・グロンダンが1960年に脱税で起訴され、無罪になったが現在行方不明であることが指摘されている。
- 1964年9月:記事の見出しは『コロラドにマフィアの自由地帯?』。記者はジョッシュ・ブラニガー。68~69年頃死亡(本記事の4~5年後。ホテルが売却された後)。記事には同年8月16日~23日の間にホテルに宿泊した人物の詳しい内容が。
1)チャールズ・グロンダン:ご存じハイ・カントリー投資会社社長。数年前にダーウェント企業連合を辞していた。
2)チャールズ・”ベビー・チャーリー”・バターリア:60歳のヴェガスの興行主。グロンダンとの親交あり。1932年に殺人容疑で裁判になり無罪。他にも麻薬・売春・殺人請負などの容疑で起訴されるも投獄されたのは1955年の脱税容疑のみ。
3)リチャード・スカルネ:ファン・タイム娯楽機械会社の筆頭株主。前科3犯。’40の暴行、’48の凶器携行、’61の脱税。
4)ペーター・ツァイス:過去2回有罪判決を受けている。ファン・タイムの株主かつヴェガスでカジノ4か所の権益を持っている。
5)ヴィットリオ・ジェネリ:別名”ヴィトー・ザ・チョッパー”。殺人容疑で23回起訴されている。
6)カール・”ジミー=・リックス”・プラシュキン:サンフランシスコの投資家。ダーウェントグループ、ハイ・カントリー、ファン・タイム、ヴェガスカジノの株主。

- 1966年6月(?):ホテル内でギャング同士の撃ち合い。※7ヴィットリオ・ジェネリ(ヴィトー・ザ・チョッパー)を含む合計3名が死亡。ちなみにジェネリはかつてボストンの悪の帝王フランク・スコフィを斧で惨殺した容疑をかけられていた。
- 1967年初頭:ホテル売却される。※8
≪ホテル内で発生した事故・事件≫
本作のストーリーに関係するか否かに関わらず、言及されている事故・事件をピックアップ。実際の年代順ではなく、ストーリーの中で語られる順番なので注意されたし。
- デルバート・グレイディによる家族惨殺事件。ジャックの前の冬季管理人(1970年)で、妻と娘2人を3階西翼で殺害しその後自殺。妻は散弾銃で、娘2人は手斧で殺害。妻を殺害した散弾銃で自殺したものと思われる。
- 年代は不明※9だが、マッシー夫人と若い男が7~10日滞在。夜、男が「ワイフの気分が悪い」と言い自分のポルシェで外出し、そのまま雲隠れ。恐らく夫人(当時の年齢で60歳過ぎか?)とのいざこざにより逃げ出したと思われる。マッシー夫人に翌朝警察へ捜索依頼を出すよう進言するが放置。その後酒と睡眠薬を多量摂取してホテルで死亡。夫は弁護士で、郡の検視官アーチャー・ホートンに圧力をかけて女房の死を「事故死」として処理した。この事件の1週間後、メイドのデロレス・ヴィカリーがその部屋(217号室)を掃除中に風呂場で死亡したマッシー夫人(の亡霊)を見る※10。それをアルマンに報告したヴィカリーは解雇される。

- ホテルの終業日(9月30日)、「アメックスじゃないと支払いはしない!」とごねたブラント老婦人。彼女の夫は以前ロークのコートで脳卒中死していた。
- ロバート・ワトスン(ホテルの施主)の息子2人のうち1人はホテル建設期間中に落馬事故で死亡。1908~1909年ごろの出来事。奥さんは流行病で死亡。ロバート本人は1930年初頭、うっかり電灯ソケットに指を入れて死亡(アメリカの家庭用電圧は120V)。
- 10月20日。ダニーがバスルームで気を失う。何かに操られているように「ローク、ストローク、レドラム」とつぶやく際にどもってしまう。吃音はジョージ・ハットフィールド(と彼が原因で教職を辞することになった)をジャックに思い出させ、激高。危うく息子に危害を加えそうになるが思いとどまる。我に返ったダニーが真っ先に話しかけたのは母親ではなくジャック。「なにかタイマーのことが・・・」との発言にぞっとするジャック。
- 同じく10月20日。その後一家がすずめばちに襲われる事件が発生。全て駆除したはずなのにガラスボウルをかぶせた巣を確認すると巣はすずめばちでびっしり覆われていた。
- 1957年。マウンテンビューリゾートの役員が私腹を肥やし倒産。社長は大陪審から召喚された2日後にピストルで自殺。
- 1961年。4人の作家がホテルを借り切って創作スクールを開講。1年間続いたが、受講者の1人が酔って3階の自室窓を突き破って転落死。
- 11月某日、ジャックがダニーをホテルから逃がすと決心したその晩夢(?)を見る。217号室の浴室に胸にナイフを刺したジョージ・ハットフィールドを発見。慌てて逃げるといつのまにか地下室にいる。両手にすずめばちの巣とタイマー。死んだ父が母を襲った杖でジョージをなぐる。いつのまにか杖は木槌に変わり、最後の一撃を加えた時ジョージの顔はダニーに変わっていた。夢から目覚めるとダニーのベッドわきに立っている自分に気づく・・・
≪ジャックの変化≫
トランス一家は多かれ少なかれ皆が「かがやき」をもっているのではないか。
ダニーは言うに及ばず、ジャックは結局ホテルに憑りつけれてしまうのだが、とりもなおさず多少なりともかがやきを持っていると思われる。ジョージ・ハットフィールドとの一件やアルと飲み歩いていた時代に事故を起こして(幸い負傷者はなし)断酒した経験などから、「自身の弱い一面」をホテルに利用されてしまったと思われる。
ウェンディに至っては基本的に女性の持っている第6感が家族に対する様々な心配を想起させるが、結果的に息子を助けることになる。
ジャックに関しては以下のような様々な変化を経てホテルに呑み込まれていった・・・
①10月20日:降雪前に屋根修理中すずめばちに刺される。
*プレジデンシャルスイートの眺望を凌駕する眺めの中での仕事は過去3年間の不快な傷が癒される気がする。
*戯曲を書く仕事が停滞していたこと自体がこの閉塞状況をもたらした原因だと思っていたので、ここ10日間で執筆が進んでいることが吉兆のように感じている。
*戯曲を完成させてエージェントに送ってしまえば問題解決できると思っている。← これは裏を返せば「自分の問題を他の何かのせいにしようとする」ジャックの悪癖にもつながる危険な考え方であるともいえる。
*アル中は彼自身の問題ではないと思いはじめる。意志力とは無関係でカラダの中のどこかに壊れたスイッチか何かがあって否応なしにシュートを滑り落ちてきただけ。自分の癇癪も同じこと。
*若いころの彼は父親からDVを受けており、学校では喧嘩、授業は居残り、フットボールも楽しむというよりむしろ怒りをぶつけるためだけにプレイしていた。→ 議論内容の是非ではなくとにかく力で相手を論破するジョージ・ハットフィールドの弁論スタイルと酷似。
*以上のような回顧を通して「おれはだんだん立ち直ってきてるぞ」と根拠のない自信をのぞかせている。
②ホテルの歴史について町の図書館で調べ物をしている時。
*フィルムリーダーのレンズの歪みからか頭痛がしてきた。ウェンディが渡したアナシンではなくエキセドリンを強く希望したジャック。しかし、ウェンディは「2日酔いをぴたりと止める唯一無二の薬がエキセドリン」とジャックが言っていたのを思い出す・・・

*頭痛を感じている間、ジャックがウェンディに対して思ったのは、
なんだって、そう根掘り葉掘り訊きたがるんだ?
絶えず夫の問題に首を突っ込みたがる
「どこへ?いつ?何時に帰る?お金は?アルと一緒?・・・」
彼女こそがアル中の原因を作った張本人ではないかと思いはじめる
「お前に望むのはさっさとここから消えてなくなることだけだ!」
③ダニーが217号室でマッシー夫人の亡霊に襲われている時。
この時点までに彼は奇妙な体験がオーバールックに起因していると考えていない。何度も「いけない事」を考えているのに・・・
児童遊園~トーピアリーでの奇妙な体験をもたらしたのは、本を書くという計画を中止せよというアルの高圧的な要求に対する反発に違いない。
ホテルの年代記は誰かに対する仕返しとして書かれるのではない。それは「オーバールック」に魅了されたからだ。
④ウェンディと話し合い、スノウモービルで(少なくとも)2人をふもとの町まで避難させると約束したあと・・・
妻は傍らで寝ている。結構なことだ。だから分かるだろう?アル。おれは考えたのさ。最善の道は-この女を殺すことだ。
その考えはどこからともなく湧いてきた。
一番に考えなければならないのはダニーのことだ。
しかし、ホテルに残れば 1)戯曲が完成して収入があるかも? 2)教職復帰も? 等々考えればどうやらここで平和を見出せそうだ。
≪ようやく感想≫
前置きが長くなりましたが(笑)、感想を。
- トランス一家の家族愛が半端ない:これは序盤のクライマックスと言っても過言ではないでしょう。まずは前提としてジャックは父親にウェンディは母親にコンプレックスを持っている。いや、そんな甘いもんじゃない。むしろ2人とも憎んでいるといっても良いほど。どちらも「こんな親にはなるものか!」という思いで新しい夫婦生活を始めたわけだ。
ある意味多くの人が親を反面教師としておきながら、嫌いな部分が似てしまったりするのではないかと思うのは私だけでしょうか。
で、息子と親子3人で生活するのですが、基本的にダニーのお父さん好き加減が半端ない。少しくらいいやな気持になっていたとしても助けを求めるのは父。ちょっとしたクセが恐ろしいほど似てしまうのも父親のそれ。ましてや父親の仕事がうまくいくように、オーバールックへ行くのを我慢してしまうところなど。
本文にもありますが、ダニーはパパ/ママの秘蔵っ子で、パパのことが大好き。
そしてジャックもウェンディも相手を思いやる。親へのコンプレックスや仕事、依存症の問題(経済的な問題とアル中についてはキング自身苦労して克服したのでリアル)などで悩んでいてもパートナーのことを考えて家族優先で物事を考えてしまうんですね。
そしてそれにつけこむオーバールックホテルが憎らしいのですよ。
- ハローランとダニーが別れるときのセリフ。「おまえさんを傷つけるものがあるとは思わない。」それを信じてしばらくは安泰だったが、217号室で女に襲われるあたりから徐々にホテルが力をつけていく。ダニーの見ることとジャックの心の変化、そしてウェンディのジャックに対する不信感などを少しずつ大きく膨らませることで恐怖を増幅させている。特に上巻最後でダニーが腐乱死体女に襲われるところは、久しぶりに1人でトイレに行けなくなるほど怖かった。ジャックの心の目盛りが善悪双方に激しく振れることで安心したりドキドキしたり、すっかりキングに心臓を鷲掴みにされた感じです。
- 原因不明の自動車事故に関するシークエンスで「事故の張本人である虫はほとんど無傷で事故車の残骸から飛び立ってゆく」というハナシ。思わずJust after sunset/夜がはじまるときに収録されている「魔性の猫」を思い出してしまいました。

- ホテルが息を吹き返す。決定的にホテルが復活したのは12月1日のこと。舞踏室にあるガラスのドームの時計がそのカギだった。ホテル内には絶対に触れてはいけない、行ってはいけない場所があり、ダニーは忠実に父の言いつけを守ってきた。ところがホテルの声がダニーをそそのかして時計のねじを回させてしまう。(ガラスのドーム時計というのはアンダー・ザ・ドームを思い出させますね)

その時のダニーの心の動きがまるでジャックが少しずつホテルに染まっていくときのようで不気味。引用しよう。「そんなの不公平だ。なぜ触っちゃいけないんだ」「そんなこと気にすることないや。向こうだってボクに触ったんだ」
その後「もはやホテルではすべてのものがある種の命を持っていた。(中略)ボクがそのカギだったのだ。トニーが警告してくれたのに無視して時計を動き出させてしまったのだ」
- キング作品の伏線について。イメージ的にキング作品の大半は伏線を「これでもかっ!」ってほど張り巡らして、お膳立てを整えてクライマックスはジェットコースターのように急降下という感じ。ところが本作は彼のオフィシャル作品としては3作目ということもあってなのか、残り3割ほど残しているのに破壊のきっかけが始まる。いつもよりゆっくりじゃん。
- 下巻P233ころの表現。”ホテルに生気がみなぎり全ての時代が合わさろうとしている。このホテルから数インチ足らずのところに別のホテルがあって、今は現実世界から隔てられているが、徐々にバランスを取って重なり合おうとしている。”
いわゆるパラレルワールドっぽい記述であるが、真っ先に思い出したのがランゴリアーズ。こちらではパラレルワールドならぬ「時間が過ぎた世界をランゴリアーズという怪物が喰いつくして無に帰す」というプロット。ホテルの強大な悪の力でランゴリアーズにさえ食い尽くすことが出来ずに残った各時代が収束してくる様子を描いたのではないかと邪推してしまいました。

- そして最後に、結末を間違えて覚えていました。
ネタバレにはなりますが、結局死亡したのはホテルの悪霊どもと憑りつかれたジャックのみ。ウェンディもダニーも無事だったのは覚えていましたが、ディック・ハローランも健在だったのですね。スノウモービルでホテルに向かう途中で生垣ライオンに襲われたり、ジャックの姿を借りたバケモノにこてんぱんにやられたし、ボイラーが200psiを越えて二進も三進も行かなくなったときに「もうハローランは助からないだろうな」と思っていましたが、大丈夫だったんですね。
考えてみればウェンディもダニーもスノウモービルを運転できないでしょうから(ウェンディは体格的には可能だったとしても体力的に無理でしょうね)、ディック・ハローランその人が運転する必要があったのですね。帰りがけには毛糸編みのミトンをちゃんと返したんでしょうか?
- 結局、作中”かがやき”を持っている人は何人いたのでしょうか?虫の知らせ程度のかがやき保有者も含めると・・・
1)ダニー・トランス
2)ディック・ハローラン
3)デロレス・ヴィカリー
4)ハローランがステイプルトン空港へ向かう機内で出会った女性。
5)ハワード・コットレル:除雪車の運転手。ディックの車を引き揚げてくれたばかりか、手袋まで貸してくれた。『おかしなもんだな。あのオーバールックホテルで誰かが危険に陥ってるなんておまえさんには知りようがないはずなのに・・・電話は切れてるはずだ、まちがいなくな。なのに、おれはおまえさんの言葉を信じる。ときどき虫の知らせってやつを感じるんだ。』
6)ディック・ハローランの祖母
ただ、ディック・ハローランに言わせるとこんな感じ ↓
「おまえさんのかがやきが一番強いよ。」「多少のかがやきを持ってる人間ってのは大勢いるのさ。」「そういう人間に出くわしたことが50-60回もあるかな。だがそのなかで、自分が”かがやき”を持ってることを知ってる人間は、うちのばあさんも含めて、ほんの10人かそこらだったよ。」
≪おまけ 他作品とのリンク(こじつけ含む)≫
- ジャックを閉じ込めたウエンディ。そこへ至る階段の記述。
「階段の吹き抜けまで来ると手すりのてっぺんの冷たい親柱に片手をかけて立ち止まった。ロビーへの階段は19段ある。これまでに何度も数えてよく知っている。全部で19段の、絨毯を敷きつめた幅の広い階段ーそしてそのうちのどの段にもジャックがうずくまって待ち伏せている様子はない。」
- 終盤、完全にホテルに取って代わられたジャックをダニーが読んでいたのはパパでもジャックでもなく「それ」だった。この表現はたびたび出てきて、ついにダニーがパパと呼ぶことはなかった。
- 本作の冒頭にある1文:『深いかがやきを持つジョー・ヒル・キングに。』
いわずとしれた、キングの第2子で長男。1972年生まれのため、本作が発表された年が1977年のため(アメリカで)キングが執筆していた当時はちょうどダニーと同じような年恰好だったハズ。
※1 トーピアリー:常緑樹や低木を刈り込んで作成される西洋庭園における造形物。
※2 ホレス・ダーウェントが秘密裏に関わっているとのウワサ。
※3 プレップスクール:いわゆる大学進学に備えるための進学校のこと。プレップとはPreparatoryのこと。アメリカでは高校までが義務教育のため、より高次の大学を目指す学生が通うのかな?
※4 エスカイア:恐らくアメリカのエスクァイア誌のこと。1933年創刊のインターナショナルマガジン。
※5 10月20日、降雪前にジャックが屋根の修理をしていてそこにあったスズメバチの巣を刺激して襲われる。殺虫剤を用い駆除したのちすずめばちの巣をダニーの寝室に置く(ダニーはいたく喜んだ)。夜間ダニーは駆除したはずのすずめばちに刺されて恐怖を感じる。
※6 チャールズ・グロンダンは怪しい人物。表向きは投資家グループの代表だったりしているが、彼自身犯罪に手を染めている形跡があるし、何よりダーウェントと深くかかわっていた可能性がある。
※7 撃ち合いがあったのは3階のプレジデンシャル・スイーツ。トランス一家がホテル到着した日にアルマンに案内された際、ダニーが見た壁に染み付いた血痕、血漿、脳髄・・・はこの事件のものと思われる。
※8 1967年にホテルをどこへ売却したのかは不明。アルマンの話ではショックリー・グループが買収したのが1970年だから、約3年の空白がある。
※9 マッシー夫人が死亡して1週間後にメイドが(かがやきで)亡霊を見るが、彼女はディック・ハローランと同じ時期に働いていた。ディック自体がホテルで働き始めて(恐らく)3年ほどなので、この事件はグレイディ事件の後ではないかと思われる。
※10 デロレス・ヴィカリーが217号室で見たことをディックに相談した。そのことを「かがやきはかがやきを知る」と表現。ちなみに”かがやき(a shine)”には黒人の意味も。
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