『異能機関』読了。初期キング作品のワクワク感に円熟の技が加わって素晴らしいエンターテインメント作品です。そして子供、な。

キングの新作『異能機関』を読み終わりました。
読み終わった感想。
まず第一に「あ~ぁ、終わっちゃった」。
そして「子供は素晴らしい(リアルも小説も)」。

まずは基本情報を記録しときます。

著者:スティーブン・キング
訳者:白石朗
ISBN-10 ‏ : ‎ 4163917179
出版元である文藝春秋のサイト記載のあらすじ ↓

異能の少年少女を拉致する謎の機関〈研究所〉。
彼らは子供たちの超能力を利用して何を企図しているのか。
冷酷なるくびきから逃れるため、少年は知恵をめぐらせる。

ミネソタ州ミネアポリスに暮らす12歳の少年ルークは、両親こそごく平凡だが、優秀な子供の特待校に通う神童だ。彼にはちょっとした特殊能力があった。ふとしたときに、周りのごく小さな物品をふれることなく動かしてしまうのだ。と言っても、それは他人が気づくほどのことでもない。

一流大学MITの入学内定を勝ち取ったルークだが、ある夜、3人の不審な男女が眠る彼をかどわかす。目覚めたルークが見たのは、自分の部屋そっくりにしつらえられているが、何かが違う一室だった。扉の外は自宅とは似ても似つかぬ、古びた大きな施設。そこには様々な少年少女が拉致され、自室と似た部屋を与えられて戸惑いながら暮らしていた。

目的も知れぬこの〈研究所〉で、残忍なスタッフや医師に、気分の悪くなる注射や暴力的な検査を繰り返される少年少女たち。彼らの共通点は「テレキネシス」か「テレパシー」の超能力を持っていることだった。

ルークは黒人少女カリーシャ、反抗的な少年ニック、幼く泣き虫だが強いテレパシーをもつ男の子エイヴァリーらと知り合うが、一定期間検査を受けた子供はひとり、またひとりと〈研究所〉の別棟〈バックハーフ〉へ連れ去られ、決して帰ってこないのだった。ルークはこの不穏な施設からの逃亡計画を温めはじめる――。

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著者:スティーブン・キング
訳者:白石朗
ISBN-10 ‏ : ‎ 4163917187

出版元である文藝春秋のサイト記載のあらすじ ↓

〈研究所〉を脱走したルークvs.冷酷女所長。
超能力少年少女vs.残忍スタッフたち。
ついに策謀の本性があらわになり、決戦が迫る。

部屋係モーリーンとエイヴァリー少年の助力でルークは〈研究所〉を逃れた。脱走に気づいた女所長ミセス・シグスビーは激怒し、自ら手下を率いて追跡する。元警官の流れ者ティムとルークが邂逅し、田舎町デュプレイで地獄のふたが開く!

一方〈研究所〉では、〈バックハーフ〉に送られたカリーシャ、ニックらがついにその企みの全貌を目にしていた。これ以上超能力を利用されつくして正気を失う前に、なんとかして逃れる方法はないのか。能力が開花したエイヴァリーを中心に、少年少女たちは立ちあがる。非情なスタッフたちとの戦いがはじまった――。

『ファイアスターター』を彷彿させる超能力、『IT』ばりの少年少女たちの勇気。キングに影響を受けたと言われるドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の設定を逆オマージュしたかのような舞台で、キングにしか書けないキャラクターが、キングにしか書けない戦いを繰り広げ、物語はキング史上最大級のクライマックスへ。

恐怖の帝王の本領が炸裂するエンターテイメント、ここに極まる!




【夏休みの読書感想文】
夏休みの宿題のつもりで、読書感想文を残しておこう。
ただし、ネタバレしないように忖度するような器用な真似は出来ないので悪しからず。

☆今回の敵である<研究所>は単純に悪と言い切れるものだろうか?
実は、物語の後半で<研究所>のしていることは良いことなのか?と一瞬思わされる箇所があった。
たしかモーリーンの最後の告白だと思うが、子どもたちがいなかったら、この世界は既に核戦争や第三次世界大戦が勃発し、壊滅しているかも知れないと。
しかし、すぐに否定。たらればのハナシは舌足らずの男の言い訳。
仮に『世界を救ってやってる』という正義の拳を振り上げている大義名分があったとしても子どもたちをこんなに辛い目に合わせて良い理由にはならない。
本書はホラーではないが、子どもを傷みつける描写が尋常じゃない。
だからこそ、彼らの蛮行は許されるべきではないのだ。

☆子どもは正義で大人は悪、時に良い大人がいる、ってのが今までのキング作品。
ところが、裏切る子どもいるわ、善人警察官たくさん(悪い警官もいる)、善人な町の人もたくさん。
それにしてもアイツが密告屋だったとは・・・

当初本作は初期の作品ファイアスターターと同系列の話だと思っていた。
実際、悪(と想定されるモノ)に攫われ、追跡され、対峙するというプロットは同じ。
しかしファイアスターターでは父娘だけの(最終的には娘だけの)孤独な闘いであったが、本作では子どもたちが結束する。
見ず知らずの大人が協力する。
壁を乗り越えた子どもたちが再び社会へ羽ばたくところまで描写される。
あれ?ファイアスターターでチャーリーのその後は語られたんだっけ?
この悪 vs. 子ども&大人 の構図はまるでITだ。

【キング他作品とのリンクや思わずにやりとさせられた表現について】
何の脈絡もないが読書中に気になった部分を抜粋していたので、記録のために残しておく。

上巻

p.18 下段 ヒッチハイクした図書館運営者マージョリー・ケラーマンのセリフ "ドナルド・
トランプとその仲間たちが予算を全部取り上げたから。あの連中には文化が理解できない。そう、ロバには代数がさっぱり理解できないのとおんなじよ" →ここでもキングのトランプ嫌いが爆発してるなぁ。

更に、p.19下段で、別れ際に用入りではないか?と問われたことに対するティムの考え→"ごく普通の人々が、それも他者に分け与える余裕もあまりない人々が、さりげなく他者にのぞかせる親切と気前の良さに胸が熱くなるのを感じた。〜中略〜それでもアメリカはいまでもいい国だといえる。→キングはホントにアメリカが好きなんだなと思わせられる。

p.33 上段 〜部屋に1枚だけかかっていた絵は斜めにかしいでいた。〜中略〜なにやら人を不安にさせる絵だった。まっすぐに直しても手を離すなり絵はたちまち斜めに逆戻りした。 →まるで『ロードウィルスは北へ向かう』や『悪霊の島』ではないか!

p.102 カリーシャとルークの会話 <スクービー・ドゥー>みたいにめでたしめでたしになるはずだって、そう信じたがってるわけ。→スクービー・ドゥーといえば、ドリーム・キャッチャーのダディッツ♪(大好きなキャラの1人なのです)

p.129 モーリーン・アルヴォースンが密告屋の件。ファイアスターターのレインバードと同じ!最初から子どもの信頼を得ているところが怪しいと思ったがその通り。その後の展開はもちろん同じじゃないよねー?
→後半、彼女は結果的に組織を裏切ることになるが、そこには複雑な家庭環境があり、レインバードのような悪の権化(だと思っている)とは違うことに気付く。

p.166 上段 キングの子ども描写好きなとこ→『ニックを表す言葉があるのならー気分が明るいときだろうと険悪なときだろうとー"生き生きしている"の一語だろう

p.192 上段 フツウ日本では3秒ルールと言うが、イギリスの国民健康保険サービスでは5秒ルールというらしい。

p.218 下段 幼い双子の少女は手を握り合い、本人たちとおなじく瓜ふたつの人形をそれぞれ抱えていた。そんなふたりの姿に、ルークは昔のホラー映画を連想していた。 → シャイニング原作には双子の少女に関するシークエンスはなかったはず。キング監修で作り直した映像化作品については記憶が定かでないがキューブリックの映画をこき落としているキングでさえこのシークエンスを持ち出すほど、強烈な印象を受けたということか。

p.294 音声モニターが無効になる"デッドゾーン"は、ここ以外にはなかったのでは?→もちろん自作「デッドゾーン」へのオマージュか。

p.320 下段 ルークとエイヴァリーが心の会話を交わしたあと、希望とはすばらしい単語であり、感じることですばらしい気分になれるものだ。』刑務所のリタ・ヘイワースでのレッドのセリフを思い出す。

p.348 下段 モーリーンのスカーフをルークはこう呼ぶ→『むしろ魔除けの護身符(タリスマン)』
こども、冒険、別世界・・・タリスマンというワードがアメリカでは超一般的なのかもしれないが(日本のおまもり?)、やはりカタカナで書かれるとキング&ストラウブ共作の『タリスマン』を思い出してしまう。

p.349 上段 デニスンリバー・ベンドの町にある操車場 ティムが夜廻を始めたデュプレイにも操車場がある。
つまり汽車というかさまざまな荷物があちこちから集まってあちこちへ向かうところ。ハブ?
と、気になっていたところ、後半の殺戮場面の舞台になっちゃうんだから・・・

下巻

p.26 上段 研究所の緩い管理体制に危機感を感じたシグスビーだが、ザ・ショップと比較すると甘い。子どもたちの現在地信号を確認しただけで安心してしまう。読者としてはこの隙にルークに遠くまで逃げて!と応援したくなる。

p.35 上段 バックハーフを歩くシグスビーが『電界に身を置いている』ように感じている。4文字題名シリーズの元祖心霊電流に似てる雰囲気を感じたのは自分だけ? → 題名シリーズはなかなか面白いかも。文藝春秋担当者によれば、中国の題名も似てるらしく、今後続いていく予感♪

p.108 下段 アニーの好きな番組名はアウトサイダーズ。ちょっとあからさま?いやアウトサイダーという言葉自体が一般的過ぎて、キング作品として特定するのは無理がある。そう考えると、The Institute も Fairy Tale も なんだか題名に特別感を感じない。ま、ストーリーが秀逸であればいいんだな。

p.114 下段 研究所の刺客を迎え討つティムにアニーが "メイン州にジェルサレムズ・ロットって町がある。〜いや、あの町に住んでる者がいればの話だよ。だって町の住民は四十年、いや、もっと前にひとり残らず消えちまったのさ。"
本作で微妙な立ち回りをするアニー。
ミザリーのアニー・ウィルクスとは違い、間接的にルークを助ける。
出た。同名異人パターン。

p.174あたり。モーリーンの告白より。ルークが彼女を助けたことは、刑務所のリタ・ヘイワースでアンディーが刑務所長を助けたのに似てる。理由こそ違うが、知識が人を助く、ということをキングは言いたかったのか。
あれ?そういえば、アンディーを映画で演じたのはティムロビンス。ま、偶然の一致かな。

p.190 下段 アニーの考え。どこの馬鹿でもしっていることだが、携帯電話は人の頭に放射能を注ぎ込む。
→セル

p.208 上段最後 花火の夜にもおなじ力を感じていたが、そのときは不潔な力だった。しかし、いまここにある力は清潔だったーひとえにその力をつくりだしているのが自分たちだからだ。
力に清潔も不潔もないのに、子どものそれを清潔と表現する、キングらしい。

下巻はその後およそ350ページまで続くが、手に汗握りすぎてメモを取るのを忘れていたらしい。

【キング作品 漢字4文字題名化の波】
既に軽く触れたが、今回の作品名は『異能機関』であり、2019年に邦訳された『心霊電流』に似ている。
今作の原題はThe Institute。で、心霊電流の方は Revival。
どちらも意訳というか単語そのものの意味とは大きくかけ離れている。
しかしどちらも手に取った時には「?」なのに読了後改めて考えるとなかなか良い言葉に見えてくる。

洋楽の邦題で結構ぶっ飛んだものが80年代くらいまではあったけど、今はカタカナ表記が多いような気がする。時代の流れかもしれないが、単に読み方をカタカナで書き直すのであればそのまま英語表記の方が良いのでは?英和辞典でひくときに便利だし、何より小学生から英語を学ぶ時代。それくらい身近にしてもいいでしょう。

ちょっと横道に逸れたけど、この漢字題名4文字化、結構好きかも。
もしかすると翻訳の白石氏かこれまでの担当永嶋氏が仕掛けているのかも?
だとすれば次作は『妖精物語』ですね(そのままやないかい!)。

【50周年イベント】

文藝春秋だけでなく全国の書店にもこのフィーバーは広がっていて、やれポップがどーの、特設売り場にオリジナルステッカーや人物相関図を置いたり・・・
でもね、そーゆーのは都会の本屋(デカイとこ)なんですよ。
千葉の田舎に住んでると、異能機関が上下巻そろって数セットあるかないかってとこですよ。

ところがエックス(もとツイッター)に公開された情報によると、近場の駅に素晴らしい書店があるじゃないですか!
早速鑑賞しにいきました。
ちなみにJR松戸駅の良文堂書店 松戸店です。
写真もお店の人に許可を頂き、ブログへの掲載もしかりです。
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遠くからでも目を引くキングマーク ^^
個人的には次回の周年イベントは50+19=69周年で開催してほしいものですが、それまでキング健在かな?
あ、自分も、か(笑)。

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見てください、壮観ですな。
各作品に書店オリジナルの紹介文が手書きでついているのですが、思わず記念撮影させていただきました。あれ?よく見れば他の作品にも紹介文が。
これだけの量を書くなんて、書くのだけではなく読むのも大変だろうな。
あ、各作家のファンに書かせりゃ読む時間は節約できるな。

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もちろん上下巻文庫本とか、それ以上のシリーズは最初の巻にだけ説明書きが付されるのだが、無いものには50周年記念のオビが。
う~ん、やっぱりオビ付の本をどれか1冊買ってくれば良かったかな。
キング作品は好きだけど版違いにまで手を出すようなコレクターじゃないので、キング作品以外の本を買ってしまいました。

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なぜか今まで読んだことがなかった古典、星を継ぐもの ですね。
キングとは何の関係もなさそうだが、絶対キングは読んでそうだな。

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1作品をクローズアップしてみると、11/22/63だ。
ラストシーンは永遠に、という文句には完全に同意する。
「IT」ネタについては、知らない人にはただのワンシークエンスだけど、知っておくともう嬉しくってニヤニヤすること請け合い。

【装幀について】
今回も装画は藤田新策氏。
もう日本では藤田氏以外の装画は見たくないな。
ってほど、馴染んじゃってる。
んで、今回の作品についても見て行く。
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まずは上下巻合わせた構図。
真っ先に気付いたのは上下巻を並べると中心に踏切(信号?なんて言うんだ??)を置いて右側には少年が眠っている絵。左側には別の列車。

読了してから見てみると、<研究所>へ向かう列車なのか、逃げる列車なのか対照的に描いているらしいということ。少年の周りにはドットが。
眠っているのか夢想しているのか(恐らく前者)、たしかクボタの芝刈り機に乗ってたびしている姿だ。
主人公ルークのこれまでの過酷な経験とこれから経験するさらに地獄のような恐怖を暗喩しているようにも見える。
ま、本を読む前からなんかワクワクとゾクゾクが同居していて楽しみ感ゲージが跳ね上がるのはいつものことだ。

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おっと、上下巻並べた状態でカバーを外すと、少年の構図がない。
つまり貨物列車のみを描いた構図で、ただなぜか微妙に両者の色使いが異なる。

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下巻の「下」を意味するところのデザイン。
装幀の仕事だとすれば石崎健太郎氏の仕事。
ちょうど少年の眼前に広がる光の粒々(ドットショッツ)に重なるようにして配されているこのひし形は少しサカナっぽくも見える。
ん? まさかザピットの魚クンなのか!?

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レコードにしても書籍にしても、日本人は「おまけ」が好きで、オビという文化もそういう国民性から生まれたものだと思うが、本作の帯は作品紹介にとどまらず、50周年の周知やそのQRコードまで載せちゃって、様々な出版形式を試してきたキングが知ったら喜ぶんじゃないかと思うほど。

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もちろん過去作品の宣伝も出来るよん♪

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そして意味があるのかないのか分からないが、栞の色が違うのです。
上巻がオレンジ、下巻が薄緑?
これにも何か意味があるのか?とも思ったが、読了しても分からず。
あえていうなら色とりどりのドットショッツが関連するのか、な?



以上記録終了。
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プロフィール

aquavit103

Author:aquavit103
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丙午生まれの♂。
40歳から始めた自転車に乗り、20歳で出会ったRIOTというバンドを愛し、14歳から読んでいるスティーブン・キングの本を読むことを至上の喜びとしています。